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Domingo編集部
湿原の自然と歴史を満喫!サロベツ湿原バックヤードツアー体験レポート【サロベツ湿原】
ツアーの開始地点となるサロベツ湿原センターは、世界的に珍しい原油を含む温泉で有名な豊富町に位置しています(ツアーが終わった後は、豊富町の温泉で一服、なんていうのも至福ですね)。サロベツ湿原センターには、サロベツ湿原に関する展示や映像資料などがあり、大変充実した内容です。湿原の成り立ちや植物・動物などをツアー前に観ておくと、ガイドさんのお話がすんなり頭に入ってくるので、少しばかり“予習”しておくといいかもしれません。
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ツアー開始!
さて、長靴の紐をぎゅっと結んだら、いよいよツアーが始まります。まずは、湿原センターの隣の泥炭産業館へ入ります。薄暗い建物の中には、泥炭採掘が行われていた当時の大型機械がひしめいています。湿原を掘削し、土壌改良材の「ピートモス」にして販売していたということで、当時の製品にも触らせてもらうことが出来ます。
外に案内されると、湿原の入口に赤錆びた躯体をずっしりと横たえた船影が目に飛び込んできます。これは泥炭浚渫船と呼ばれる泥炭を掘削する作業船です。表面のざらつきや威風堂々とした佇まいが古めかしさを感じさせますが、2000年代前半まで使われていたということです。船体に張り巡らされた手すりや梯子が、なんだかワクワク感を醸し出しています。
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近づくと、デカい…。
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浚渫船の脇を抜けて湿原へ。木道をしばらく歩くと、目の前がサーッと開けます。雄大な原野が風に揺れながら遠くまで一面を覆い、深い青空が雲をたなびかせます。
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葦がなびく草原の波と白い雲が交わる地平線には、青白い利尻富士が薄くそびえているのが見えます。この日は特に天気が良く、山の稜線がその背景の空にくっきりと刻まれていました。
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ここで、あれ?サロベツ原野って湿原じゃないの?と思われた方もいらっしゃるかもしれません。確かに、写真はどう見ても、原っぱです。実は、サロベツ湿原の中心部は「高層湿原」と呼ばれる湿原で、釧路などの「低層湿原」とは全く見た目が異なります。高層湿原は、湿原に泥炭の堆積が進み、ミズゴケ類などが群生することで地表面が盛り上がり、その上に背の低い湿原植物が繁茂することで形成されます。そのため、実際は地面の下には水が豊かに蓄えられていますが、表面は草原のように見えるのです。
湿原ならではの生態系
林道を歩くと、ツルコケモモやウメバチソウ、さらには食虫植物のモウセンゴケなど湿原ならではの繊細で豊かな生態系が顔を覗かせてくれます。
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ツアーが進むと、赤黒い波紋を湛えた巨大な池が現れます。ここは、先ほどの浚渫船で泥炭掘削が行われた跡地だそうです。現在は水鳥たちが休息するために利用しています。
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しかし、それでも自然を再生しようとする試みは行われています。ツアーのクライマックスでは、自然を取り戻すための取り組みに参加します。
ガイドさんについて歩くと、木道沿いに植物が全く生えていない禿げた地面の一帯が現れます。ここでこの日初めて(というか人生初めて)、特別に許可を得て木道からサロベツ湿地に降り立ちます。泥炭の掘削のため裸になってしまった土地は、踏みしめるとフカフカしていました。ガイドさんが地面を飛び跳ねると、周囲の土の表面に波紋が伝わっていきます。足の下になみなみと水が蓄えられ、それをやわらかい泥炭が優しく覆っているためこのような不思議な現象が起きるのだそうです。私たちも飛び跳ねてみると、やはり地面がプルプル震え、固まる前のセメントの上にでもいるような気がします。とても奇妙な感覚でした。
長い歳月をかけた自然再生
遊んでばかりいないで自然再生の一助となるべく、ガイドさんの指示に従います。植物が根を生やせず、露出してしまった土地に、新しく飛んできた植物の種子やツタが絡まりやすいように、地面を生分解性の麻ネット(専用の目の粗い布)で覆います。隣には、数年前に設置された布に、小さな薄緑色の植物の葉が芽吹いていました。これから、気の遠くなるような歳月をかけて、少しずつ少しずつ自然を再生していくのです。
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こうして、自然を五感で満喫し、その豊かさを体感しながらも、同時に湿原の儚く繊細な姿、そして今も残る傷跡を肌で感じることが出来ました。なぜ自然を守らなければならないのか、人間は今まで何をしてきたのか。そんな普段あまり考えないような問いを、美しい自然に突きつけられたような気がしました。
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サロベツ湿原バックヤードツアーは大満足で終了しました。普段立ち入り禁止のサロベツ原野の美しい姿は今も目に焼き付いています。ガイドさんの興味深い解説や、質問への熱心な答えは、湿原の自然に真摯に向き合う姿を垣間見たような気がしました。こんな素晴らしいツアーが無料とは、なんだか申し訳ないような気がしたくらい。10月もツアーは毎週末開催されています。是非一度、北の原野に足を踏み入れてみてはいかがでしょうか?
最後に、ツアー後はレストハウス サロベツにて「サロベツラーメン」を一杯。地元・稚咲内で採れた海産物の濃厚な旨みが、疲れた体に染み込んでいきました。
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