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浦幌を知りつくす元・地域おこし協力隊が立ち上げたホステル
浦幌町在住の家具職人さんが制作した共用リビング内の本棚
帯広市と釧路市のちょうど真ん中、それぞれの町から車で約1時間の場所に位置する浦幌町。この人口4,000人ほどの小さな町に「ハハハホステル」はあります。同施設を立ち上げたのは、移住促進事業や「トリノメ商店」の運営など、浦幌町を活性化させるためのさまざまな事業を行っている小松輝さんです。実は小松さんはもともと浦幌町の地域おこし協力隊(以下、協力隊)として活躍していた方。
当時の浦幌町の主な宿泊先はJR駅前の老舗旅館のみで、なかなか予約がとれなかったそう。町に人を呼び込むためにバードウォッチングツアーや炭鉱ツアーなどを行っても宿泊する先がなく、浦幌町の良さを深く知ってもらえない。そんな課題を解決するために、ホステルを作ることにしたのだといいます。
建物は築35年以上になる「森林室」の元独身寮を活用。2020年末から地域の方々と一緒にセルフリノベーションしながら、2021年7月にオープンしたのが「ハハハホステル」なのです。
元独身寮をセルフリノベーション
セルフリノベーションするにあたってこだわったのは、木をふんだんに使ったこと。ログハウスのような外観はもちろん、「“林業の町”である地域性を大切にしたい」という想いが込められています。特に2階の洋室には、もともと敷かれていた畳を剥がしたのち、浦幌町の無垢床材が張られており、オープンから数年経った今でも、ほんのりと木の香りが感じられるそうです。
木をふんだんに使った正面玄関
正面玄関入ってすぐ左にはチェックイン手続きをするカウンターが
そんな浦幌町の地域性がぎゅっと詰め込まれたお部屋とは、一体どんな空間なのか。早速見ていきましょう!
仕事や読書に。“おこもりステイ”にもぴったりなお部屋
ハハハホステルのお部屋は7つの洋室と1つの和室の計8部屋。そのすべてが個室で、他のゲストと相部屋になることがありません。ドミトリーが苦手な方や仕事や読書といった“おこもりステイ”を求める方にぴったりのお部屋です。
特に全6室のシングルツインにはテーブルと椅子、押入れだった場所を改装してデスクにしたワーキングスペースも完備。延長コードもあるなど、すみずみまで配慮が行き届いています。あまりに居心地が良いためか、出張で来た方のほとんどがお部屋にこもって過ごすのだそう。
シングルツインのお部屋。テーブル、椅子、延長コード、テレビ、ハンガーラック、空気清浄機、ストーブ、サーキュレーターが完備
朝はほんのりと日の光が差し込みます(カーテンは全室共通)
3名で宿泊される方にはトリプルルームの利用がおすすめです。お部屋全体を照らす照明のほか、ベッド別の照明があるため、「みんな寝ちゃったけど、もう少しだけ本を読みたい」なんていうときにも活躍してくれます。なお、洋室の壁の色は全部で3種類。どのお部屋に泊まれるかもお楽しみの一つですね。
トリプルルームには折り畳みテーブル、折り畳み椅子、延長コード、テレビ、ハンガーラック、空気清浄機、ストーブ、サーキュレーターが完備
1階には布団で寝られる和室もあります。階段を使わずに済むので、足腰に不安がある方やお子様連れの方にもおすすめです。
1階にある和室は足腰に不安のあるご高齢の方やお子様連れにもおすすめ
和室にはテーブル、座布団、延長コード、テレビ、ハンガーラック、ストーブ、サーキュレーター、ドライヤーが完備
お部屋はすべて個室ですが、トイレやシャワーは共用。館内1階にあるシャワールームには、シャワールームと脱衣所というシンプルな作りで、荷物置き、タオル掛け、シャンプー・コンディショナー・ボディソープが用意されています。
館内1階にある共用シャワールーム
また、館内1階には洗面台が。大きな鏡とドライヤーがあり、身支度がしやすい作りに。浦幌町の花「ハマナス」を使ったオーガニックコスメブランド「rosa rugosa」の化粧品・乳液のテスターを使えることもうれしいポイントの一つです。
館内1階にある洗面台
館内2階にある共用キッチンも、宿泊している方なら誰でも使えます。一見コンパクトですが、食器、コップ、カトラリーをはじめ、醤油・料理酒・塩・胡椒といった調味料や、フライパン、まな板、包丁、冷蔵庫、電子レンジ、ポット、トースターといった、基本的な調理器具・調理家電は概ね揃っているとのこと。
「道の駅うらほろ」や「ザ・ベジタブルショップ21」で買ってきた地場の食材を使った料理を楽しむ……なんていう楽しみ方も。長期滞在をする方は食材を買ってきて“暮らす”ように泊まってみるのもいいかもしれませんね。
なお、宿泊料金にオプションで朝食を付けることも可能。前日の夜にスタッフの方による手作りのサンドイッチが冷蔵庫にセットされていて、好きなタイミングで食べられる仕組みです。素材がぎゅっと詰まったサンドイッチは宿泊される方々から大好評。見るからに食べ応えがありそうです。
浦幌町内では朝早くから営業しているお店は少ないのだそう。「事前に朝食を用意するのはちょっと大変」と感じる方はぜひ予約時に朝食オプションを申し込むことをおすすめします。
薪ストーブのある空間で思い思いの過ごし方を
続いてご紹介するのは、共有リビング。ここには大きなテーブルや1人がけソファ、ベンチ、薪ストーブ、本棚、カフェバーがあります。“おこもりステイ”需要にしっかり対応しつつも、他のゲストやスタッフと交流したい方や、より広いスペースでゆったりくつろぎたい方の気持ちにも寄り添った空間に。
飲食OKなので、ご家族や友人と広いスペースで食事を楽しみたい方がよく利用されているそう。もちろん、人のにぎわいを感じながら仕事や読書をしたい方にもおすすめです。
共用スペースにはカフェバーもあります。基本的には宿泊者向けの施設ですが、地元の方が野菜をおすそ分けしにふらっと立ち寄ることも。また、現在提供しているのはドリンクのみで「近隣のお店を利用してもらいたい」という想いから、持ち込みもOKにしているそうです。
浦幌町は長く愛されてきたストーリーのある飲食店が多いことも、その特徴の一つ。しかし、店とともに年を重ね、リタイヤを検討している店主の方も少なくないのだとか。「あのお店のナポリタンおいしかったな」などと、各店での思い出を作るつもりで、地元の飲食店をめぐってみるのも良いかもしれません。
“自然の宝石”から“暮らし”まで、楽しみ方いっぱい
自然が生み出す宝石「ジュエリーアイス」
浦幌町はいわゆる“観光地”ではありませんが、楽しみ方がいっぱい。その一つが、ジュエリーアイスです。ジュエリーアイスとは、太平洋に流れ出た十勝川の氷が海岸に打ち上げられたもの。波にもまれる中で角がとれて、まるで宝石のような美しい輝きを放ちます。見ごろは1月中旬から2月下旬ととても寒い時期ですが、冬でも楽しめるアクティビティがあるのはうれしいですよね。
氷をお面のようにしても楽しい
また、ハハハホステルに泊まるなら「バードウォッチング」もおすすめ。実は浦幌町は畑地や原生花園、山林地、湿地などの多様な環境とエサ場があることから、さまざまな鳥が集まりやすい地域だと言われていて、バードウォッチングにはうってつけなのです。
多くの鳥が活発になるのは早朝ですが、当然ながら時間や天候、季節などによって鳥たちの動きが変わってきます。お目当ての鳥を見る確率を上げたい方には、数日の滞在をおすすめしているとのことでした。
なお、浦幌町には現地で長年野鳥観察を続けてきた地元ガイドによる、オーダーメイド型のバードウォッチングツアーもあるのだとか。ツアーはすべてプライベートツアーとして現地ガイドが車で案内してくれるので、バードウォッチング初心者はもちろん遠方から来られたベテランの方にとってもうれしいツアーです。そのほか、夏場はサイクリングを楽しまれる方も多いのだそう。
観光を中心にご紹介してきましたが、浦幌町の魅力は“暮らし”。昔から地元に住み続けてきた方と、ここ10年ほどで続々と増えてきた20~30代の移住者が混じり合って汽水域を作り、多様でユニークな環境が生まれています。
ハハハホステルの運営を担当する工藤安理沙さんは「浦幌町に長く滞在して地元の方の想いやストーリーに触れる中で、その良さがじんわりとわかってくる」と話します。ハハハホステルでは、宿のお手伝いをしてもらう代わりに滞在場所を無料で提供するヘルパーさんも募集しているそう。町の魅力にしっかりと触れてみたいと考えている方は、長期滞在を検討してみてはいかがでしょうか?
ライタープロフィール
佐々木ののか
1990年北海道音更町生まれ。大学進学とともに上京し、2015年からフリーライターとして独立。2021年にUターンし、現在は生まれ故郷の十勝にて、馬1頭、猫2匹、子1人とともに暮らしながら、冬は狩猟者として鹿を追っている。著書に『愛と家族を探して』『自分を愛するということ(あるいは幸福について)』(ともに亜紀書房)などがある。
