Domingo編集部
「喜茂別の一員のつもりで生きています」NHK『ローカルフレンズ滞在記』喜茂別町編のディレクターにまちの魅力を聞いてみた!
NHK北海道で2021年4月にスタートした『ローカルフレンズ滞在記』。“地域にディープな人脈を持つ「ローカルフレンズ」のもとにディレクターが1か月滞在し、地域の宝を見つけます。”という企画で、これまでの「取材」とは全く違うやり方で、北海道各地域の魅力を掘り下げています。
Domingoでは以前、4月に放送された宗谷編を担当した越村ディレクターのインタビューを公開しましたが(前編はこちら、後編はこちら)、今回新たに5月に放送された喜茂別町編を担当した大隅ディレクターにお話を伺いました。
1か月滞在して気づいたまちの魅力とは。そして滞在がもたらした大隅ディレクター自身の変化とは。ぜひご覧ください!
―喜茂別町に行かれる前の印象はいかがでしたか?
そもそも喜茂別町のことを知りませんでした。北海道初心者と言いますか、北海道に来て1年半が経ちましたが、今回のローカルフレンズの加藤さんが申し込んでくれたときに、喜茂別町の文字を見て「これは"きもべつ"とお読みしていいのでしょうか」というぐらい。喜茂別という地域を認識していなかったところからのスタートでした。
札幌から中山峠を越えたことが無かったかもしれないです。イメージも何も無かった時に加藤さんにお会いして、そこから喜茂別町のことを知っていきました。
―では滞在の過程でいろいろ変化がきっとお有りじゃないかと思いますので、その話は後でお伺いしますが、喜茂別に1か月滞在された後、今はどういった印象をお持ちですか。
私も喜茂別の一員のつもりで生きています。札幌で暮らしていますが、そのような帰属意識というのは未だになく、馴染みのお店とかもありませんし、地域の取り組みに参加することもありませんでした。今は札幌市民という感覚よりも、1か月という滞在ではありましたが喜茂別の方が「自分のまち」という感じがします。
―そのように至るまでにどういった変化があったかをぜひうかがいたいと思います。今回加藤朝彦さんがローカルフレンズということで、加藤さんを窓口に地域の方々を紹介してもらったと思いますが、一番最初はどういったお話をされましたか。
加藤さんはtigris(チグリス)というカフェを営まれていて、最初はプライベートでコーヒーを飲みに行かせていただきました。
―実際に滞在されてまちの特徴はどのように感じましたか。
喜茂別町は羊蹄山や喜茂別岳もありますが、実は1か月暮らしてみたら「川」がすごく喜茂別という地域を性格づけているんじゃないかと気づきました。まちそのものが川に沿った平地に形成されていて、まちの基幹産業である農業はその恩恵に預かっていました。また象徴的な例ですが、全国区のアスパラガスの缶詰工場が喜茂別町にできたのも、きれいな水でホワイトアスパラなどを洗浄することができることが理由だったようです。さらに、どこに行っても川沿いの美しい景色があるんです。
―喜茂別は札幌とニセコの間のハブになっているまちという表現もありますが、車で通るだけだとあまり川って見えないですよね。
見えないですよね。降りてみたらすぐですけどね。ものすごく美しい川沿いの土手道がありまして、滞在中は毎朝毎晩散歩していました。取材が終った後に滞在中に撮った写真をみていたら川の写真ばっかり撮ってました。放送では使わないのに(笑)
こんな感じのお写真なんですが。
これが川沿いの土手道なんですが、何キロもつづいているんですよ。喜茂別の中心部からであれば、どこからでも歩いてすぐに川が見えますよ。
―今回たくさんの方を取材されたと思うのですが、印象的だったエピソードがあれば教えていただけますでしょうか。なかなかこれというのを選びづらいとは思いますが...
(手元の手帳をめくりながら)そうですね……何人かを選ぶのって難しいですね。みんなのこと話したくなっちゃう……
まちに帰ってきた下村雄太さんですかね。彼をみていると「こういう人がいたら、彼の周りに彼のタレント性に惹かれて人が来るんじゃないか」と思わせるぐらい魅力的な方でした。スキーヤーですが、スポーツでもなくレジャーでもなく「表現」として「フリースキー」をされているんです。自分が生きている証として、画家が絵を描いたり、音楽家が作曲するのと同じようにスキーをされていて。
今まで北米のアラスカやオセアニア、白馬などでスキーをしてきた下村さんが、自分の育った山をまだ滑っていないと地元に帰ってきて、そこを自分のキャンバスにしようとしているということに、いいな、素敵だなと思いました。話を聞いていると若くていらっしゃるんですが、惹かれるものがあるんです。
―日常の中で自分達が見失っているかもしれない真っすぐさのようなものを下村さんに見たというような感じでしょうか
まさにそうですね。スキーひとつとっても、競技だと人と比べられることになりますし、一方でレジャーとして楽しむ方もいらっしゃいますが、自分の生き方が滑ることだと言い切れるなんて、本当におもしろい。さらに私に「今後やりたいことがたくさんある」と目を輝かせて話してくれるんです。加藤さん交えて3人や、私と2人で、ずっと将来何をしたいかという話をしてました。すっかり仲良くなって一緒にキャンプに行って、同じテントで寝泊りもしました(笑)
―そういった方に出会われて、冒頭でお話いただいた「まちの一員」のように思われている訳ですね。もし他にエピソードがあればぜひ伺いたいのですが。
(再び手帳を見ながら悩みつつ)そうですね……シブちゃん(シブ・ブルゾーさん)。シブちゃんも自分の人生を楽しんでいる方です。
桜が咲いたら一番いいところでお花見をして、行者ニンニクが採れたらペーストにしたものを分けてくれました。喜茂別という大地を日々とても楽しんでいるんですよ。その気持ちを彼女は舞踏家でありアーティストでもあって、短い言葉に表しています。
―喜茂別の山や川などの自然を含めた環境がこういった方を呼び寄せているんですね
そうですね。近隣のニセコや倶知安、ルスツとまた違った自然との向き合い方を求める人が集まっているのかもしれません。商業ベースで考えたら他の地域の方がいいかもしれないですが、そういった中で喜茂別を選んでいる方々は、静かに自然と向き合いたいと思われている方も多いんじゃないかなと思います。
―日常的に自然と共にあるということを望まれている方々で、今後そういった方が増えていくかもしれないですね。
―本日はありがとうございました!
ありがとうございました!余談なのですが、滞在後もいろんなまちに取材や観光で行きますが、人口規模や産業、まちのヒトの生き方を喜茂別と比べちゃう自分がいるんですよ(笑)他のまちを案内してもらったとき、何度も「喜茂別では」って話してしまって謝ったり。「すみません。ちょっと比べちゃう癖があって」って(笑)
まちのことをたくさん人に紹介していて、今日も知り合いが一人喜茂別に行っています。喜茂別はそのぐらい自分の中で軸として存在しているまちですね。
―滞在が大隅さんにとっても本当にいい体験になったんですね
私が一方的に思っていることで、まちの方々にそう思っていただいてこそだとは思っていますが、喜茂別という地域を私は自分ごととして感じていて、それが日々の仕事にも繋がっていると実感します。メディアのヒトも地域社会の一員であるということを頭ではわかっていたのですが、身に沁みて実感することができたということに感動しています。
(インタビュー以上)
滞在を通じて今では「喜茂別の一員のつもりで生きています」と断言された大隅さん。まちの「ファン」を越えた「一員」として、喜茂別の魅力を教えていただきました。みなさんもぜひまちに足を運んでみてはいかがでしょうか。
さて、これまで『ローカルフレンズ滞在記』で滞在されたディレクターさんのお話を伺ってきましたが、その『ローカルフレンズ滞在記』が生まれるまで、そして生まれてから何が起こったかについて、今回お話を伺った大隅さんによる連載「ローカルとメディアの冒険」がDomingoでスタートします。
北海道の地域の未来のために、奮闘している方々の実際のお話です。
9月17日(金)から全6回を予定しています。
どうぞお楽しみに!
Domingoでは以前、4月に放送された宗谷編を担当した越村ディレクターのインタビューを公開しましたが(前編はこちら、後編はこちら)、今回新たに5月に放送された喜茂別町編を担当した大隅ディレクターにお話を伺いました。
1か月滞在して気づいたまちの魅力とは。そして滞在がもたらした大隅ディレクター自身の変化とは。ぜひご覧ください!
「喜茂別の一員のつもりで生きています」
―喜茂別町に行かれる前の印象はいかがでしたか?
そもそも喜茂別町のことを知りませんでした。北海道初心者と言いますか、北海道に来て1年半が経ちましたが、今回のローカルフレンズの加藤さんが申し込んでくれたときに、喜茂別町の文字を見て「これは"きもべつ"とお読みしていいのでしょうか」というぐらい。喜茂別という地域を認識していなかったところからのスタートでした。
大隅 亮(おおすみりょう)
NHK札幌拠点放送局・ディレクター
1984 年、静岡県三島市生まれ。2008年、NHKにディレクターとして入局。新プロジェクトの立ちあげを得意とし「ノーナレ」や「プロフェッショナル子ども大学」を開発した。2019年からは北海道で「ローカルフレンズ」「シラベルカ」「もやカフェ(帯広局)」を企画。ローカルフレンズでは道東、函館、伊達、中標津、知床、清里、宗谷、喜茂別、弟子屈の制作に携わる。童顔だが2児の父。スキー歴2年。
―喜茂別町を通ったこともありませんでしたか?NHK札幌拠点放送局・ディレクター
1984 年、静岡県三島市生まれ。2008年、NHKにディレクターとして入局。新プロジェクトの立ちあげを得意とし「ノーナレ」や「プロフェッショナル子ども大学」を開発した。2019年からは北海道で「ローカルフレンズ」「シラベルカ」「もやカフェ(帯広局)」を企画。ローカルフレンズでは道東、函館、伊達、中標津、知床、清里、宗谷、喜茂別、弟子屈の制作に携わる。童顔だが2児の父。スキー歴2年。
札幌から中山峠を越えたことが無かったかもしれないです。イメージも何も無かった時に加藤さんにお会いして、そこから喜茂別町のことを知っていきました。
―では滞在の過程でいろいろ変化がきっとお有りじゃないかと思いますので、その話は後でお伺いしますが、喜茂別に1か月滞在された後、今はどういった印象をお持ちですか。
私も喜茂別の一員のつもりで生きています。札幌で暮らしていますが、そのような帰属意識というのは未だになく、馴染みのお店とかもありませんし、地域の取り組みに参加することもありませんでした。今は札幌市民という感覚よりも、1か月という滞在ではありましたが喜茂別の方が「自分のまち」という感じがします。
―そのように至るまでにどういった変化があったかをぜひうかがいたいと思います。今回加藤朝彦さんがローカルフレンズということで、加藤さんを窓口に地域の方々を紹介してもらったと思いますが、一番最初はどういったお話をされましたか。
加藤さんはtigris(チグリス)というカフェを営まれていて、最初はプライベートでコーヒーを飲みに行かせていただきました。
加藤 朝彦(かとう ともひこ)
(coffee&sharespace tigrisオーナー)
札幌市出身。2017年8月に東京から喜茂別町に移住。地域おこし協力隊として活動後、2019年5月にcoffee&sharespace tigris[チグリス]を開業。喜茂別を拠点に“地域と人の想いに寄りそう”ことを大切にしながら試行錯誤中。
応募のお礼も兼ねて行ったのですが、私がプライベートで行っていることもあり、仕事の話というより普通の話を―すごく美味しい店があるということを聞いて大喜びしまして。紹介していただいたパン屋さんやチーズ屋さんに行ったらレベルがものすごく高くて、さらに直売所に立ち寄ったらじゃがいももたくさんの種類があって。その日はパン・チーズ・野菜と、北海道に来て一番北海道らしい食体験をした、という感じがありました。(coffee&sharespace tigrisオーナー)
札幌市出身。2017年8月に東京から喜茂別町に移住。地域おこし協力隊として活動後、2019年5月にcoffee&sharespace tigris[チグリス]を開業。喜茂別を拠点に“地域と人の想いに寄りそう”ことを大切にしながら試行錯誤中。
滞在して気づいた喜茂別のこと
―実際に滞在されてまちの特徴はどのように感じましたか。
喜茂別町は羊蹄山や喜茂別岳もありますが、実は1か月暮らしてみたら「川」がすごく喜茂別という地域を性格づけているんじゃないかと気づきました。まちそのものが川に沿った平地に形成されていて、まちの基幹産業である農業はその恩恵に預かっていました。また象徴的な例ですが、全国区のアスパラガスの缶詰工場が喜茂別町にできたのも、きれいな水でホワイトアスパラなどを洗浄することができることが理由だったようです。さらに、どこに行っても川沿いの美しい景色があるんです。
―喜茂別は札幌とニセコの間のハブになっているまちという表現もありますが、車で通るだけだとあまり川って見えないですよね。
見えないですよね。降りてみたらすぐですけどね。ものすごく美しい川沿いの土手道がありまして、滞在中は毎朝毎晩散歩していました。取材が終った後に滞在中に撮った写真をみていたら川の写真ばっかり撮ってました。放送では使わないのに(笑)
こんな感じのお写真なんですが。
これが川沿いの土手道なんですが、何キロもつづいているんですよ。喜茂別の中心部からであれば、どこからでも歩いてすぐに川が見えますよ。
フリースキーヤーの下村雄太さん、舞踏家のシブ・ブルゾーさんとの出会い
―今回たくさんの方を取材されたと思うのですが、印象的だったエピソードがあれば教えていただけますでしょうか。なかなかこれというのを選びづらいとは思いますが...
(手元の手帳をめくりながら)そうですね……何人かを選ぶのって難しいですね。みんなのこと話したくなっちゃう……
まちに帰ってきた下村雄太さんですかね。彼をみていると「こういう人がいたら、彼の周りに彼のタレント性に惹かれて人が来るんじゃないか」と思わせるぐらい魅力的な方でした。スキーヤーですが、スポーツでもなくレジャーでもなく「表現」として「フリースキー」をされているんです。自分が生きている証として、画家が絵を描いたり、音楽家が作曲するのと同じようにスキーをされていて。
今まで北米のアラスカやオセアニア、白馬などでスキーをしてきた下村さんが、自分の育った山をまだ滑っていないと地元に帰ってきて、そこを自分のキャンバスにしようとしているということに、いいな、素敵だなと思いました。話を聞いていると若くていらっしゃるんですが、惹かれるものがあるんです。
―日常の中で自分達が見失っているかもしれない真っすぐさのようなものを下村さんに見たというような感じでしょうか
まさにそうですね。スキーひとつとっても、競技だと人と比べられることになりますし、一方でレジャーとして楽しむ方もいらっしゃいますが、自分の生き方が滑ることだと言い切れるなんて、本当におもしろい。さらに私に「今後やりたいことがたくさんある」と目を輝かせて話してくれるんです。加藤さん交えて3人や、私と2人で、ずっと将来何をしたいかという話をしてました。すっかり仲良くなって一緒にキャンプに行って、同じテントで寝泊りもしました(笑)
―そういった方に出会われて、冒頭でお話いただいた「まちの一員」のように思われている訳ですね。もし他にエピソードがあればぜひ伺いたいのですが。
(再び手帳を見ながら悩みつつ)そうですね……シブちゃん(シブ・ブルゾーさん)。シブちゃんも自分の人生を楽しんでいる方です。
桜が咲いたら一番いいところでお花見をして、行者ニンニクが採れたらペーストにしたものを分けてくれました。喜茂別という大地を日々とても楽しんでいるんですよ。その気持ちを彼女は舞踏家でありアーティストでもあって、短い言葉に表しています。
山のように強く、そよ風のように軽く、刃のように鋭く感じます。
I feel as strong as a mountain, as light as the breeze, as sharp as a blade.
この言葉、ハッとさせられますよね。I feel as strong as a mountain, as light as the breeze, as sharp as a blade.
―喜茂別の山や川などの自然を含めた環境がこういった方を呼び寄せているんですね
そうですね。近隣のニセコや倶知安、ルスツとまた違った自然との向き合い方を求める人が集まっているのかもしれません。商業ベースで考えたら他の地域の方がいいかもしれないですが、そういった中で喜茂別を選んでいる方々は、静かに自然と向き合いたいと思われている方も多いんじゃないかなと思います。
―日常的に自然と共にあるということを望まれている方々で、今後そういった方が増えていくかもしれないですね。
気づけば喜茂別と比べてしまうように
―本日はありがとうございました!
ありがとうございました!余談なのですが、滞在後もいろんなまちに取材や観光で行きますが、人口規模や産業、まちのヒトの生き方を喜茂別と比べちゃう自分がいるんですよ(笑)他のまちを案内してもらったとき、何度も「喜茂別では」って話してしまって謝ったり。「すみません。ちょっと比べちゃう癖があって」って(笑)
まちのことをたくさん人に紹介していて、今日も知り合いが一人喜茂別に行っています。喜茂別はそのぐらい自分の中で軸として存在しているまちですね。
―滞在が大隅さんにとっても本当にいい体験になったんですね
私が一方的に思っていることで、まちの方々にそう思っていただいてこそだとは思っていますが、喜茂別という地域を私は自分ごととして感じていて、それが日々の仕事にも繋がっていると実感します。メディアのヒトも地域社会の一員であるということを頭ではわかっていたのですが、身に沁みて実感することができたということに感動しています。
(インタビュー以上)
滞在を通じて今では「喜茂別の一員のつもりで生きています」と断言された大隅さん。まちの「ファン」を越えた「一員」として、喜茂別の魅力を教えていただきました。みなさんもぜひまちに足を運んでみてはいかがでしょうか。
さて、これまで『ローカルフレンズ滞在記』で滞在されたディレクターさんのお話を伺ってきましたが、その『ローカルフレンズ滞在記』が生まれるまで、そして生まれてから何が起こったかについて、今回お話を伺った大隅さんによる連載「ローカルとメディアの冒険」がDomingoでスタートします。
北海道の地域の未来のために、奮闘している方々の実際のお話です。
9月17日(金)から全6回を予定しています。
どうぞお楽しみに!