Domingo編集部
『SDGs街区』を担当する株式会社ニセコまちの田中 健人(たなか・けんと)さんにお話をお伺いしました。
目次
1. いまニセコで進められている『SDGs街区』とは?
2. 『SDGs街区』はニセコ町の地域課題を解決する一つの手段
3. 鍵は「エネルギー」と「地域づくり」
4. ニセコ町民と心地よい関係性を築く
いまニセコで進められている『SDGs街区』とは?
ニセコ町で開発が進められている『SDGs街区』とは、一言でいうと持続可能な生活空間のモデルとなるような地区のこと。ニセコ町に「環境」「経済」「社会」の観点で持続可能性の高い地区を市街地近郊につくる計画が、いま着々と進んでいます。
もともとニセコ町は、「住民参加・情報共有による自治の実践」や「環境モデル都市の取り組み」、「独自の開発ルールづくり」等、SDGsが目指す方向性にも合致するようなまちづくりを継続してきました。
そんな中、ニセコ町はSDGs達成に向けて優れた取り組みを提案する地方自治体として「SDGs未来都市」に選定。なかでも優れた先導的な取り組みとして「自治体SDGsモデル事業」に選定されたのが、NISEKO⽣活モデル地区、通称『SDGs街区』の開発です。
この開発を担うのは、ニセコ町と地域事業者、専門家集団が立ち上げた官民連携の「株式会社ニセコまち」。ニセコ町が38%、地域事業者が34%、⼀社クラブヴォーバンが28%の比率で出資しあって2020年7月に設立しました。
そんな『SDGs街区』の開発が進んでいるのは、ニセコ町富士見地区。かつては大半が農地だった市街地近郊の約9ha(90,000㎡)のエリアに、賃貸・分譲の集合住宅、シェアハウスなどの居住空間や、ランドリーカフェ、工房や広場などの憩いの場を作る計画です。現状、住居部分は最大で400~500名ほどの入居が可能な規模の計画なんだとか。
街区としての最終形が完成するのは、およそ10年後。第一工区〜第四工区に分け、歳月をかけて進化していく都市計画です。ハコモノだけを一気に作るのではなく、周辺環境やニーズに呼応するように、規模や用途を柔軟に変更していくことを常に意識しているといいます。
最初に着工する第一工区は、2022年に造成工事、2023年春には建築を開始し、2024年に入居開始予定です。
「こんなまちにしていきたいという理想の絵を描きつつも、計画自体はかなり柔軟です。『もう少しコンパクトな開発でいいよね』とか、『ここに小さな商店があったらいいよね』というニーズや周辺環境の変化があれば、なるべく柔軟に対応できるように考えています。」
『SDGs街区』はニセコ町の地域課題を解決する一つの手段
そもそも、なぜニセコ町で『SDGs街区』の開発の計画が立ち上がったのでしょうか?それは、ニセコ町民が感じている「環境」「経済」「社会」に関する地域課題を解決するためでした。
環境という側面から考えると、主要産業が農業と観光業であるニセコ町にとって、気候変動はまちに大きな影響を及ぼす問題。令和2年にニセコ町では気候非常事態を宣言し、2050年には地球温暖化の原因となる温室効果ガスの排出量実質ゼロを目指しています。
またニセコ町は国内外からの移住者が多く、農村としては珍しく人口が微増。周辺市町村から通勤・通学する方も多く、賑わいが増えています。その一方で、町営住宅の数には限りがあり、さらに地価や建設費の高騰により、住宅の数・価格ともに満足な供給を行えていないのが現状です。 さらに、ニセコ町が町民に対して行ったアンケート(2018年・2019年)の結果、多くの世帯の方々が「将来的に住み替えを検討したい」と回答しているという事実も。「冬でも暖かい家に住みたい」「除雪や庭の手入れが大変になってきた」「光熱費を抑えたい」など冬の負担を軽減したいという方々が少なくないことがわかりました。
そんな地域課題を解決する1つの手段として、エネルギーの消費量が極限まで少なく、また既存のニセコ町民の住み替え先の受け皿としてニセコ町で計画されたのが、NISEKO⽣活モデル地区、通称『SDGs街区』の開発です。
鍵は「エネルギー」と「地域づくり」
SDGs街区で実現したいことはいくつもありますが、鍵となるのは『エネルギー消費を減らし、地域内経済循環を促すこと』と、『住み続けたくなる地域づくり』。
一つ目の鍵は『エネルギー消費を減らし、地域内経済循環を促すこと』。街区全体でエネルギーの消費を減らす施策として、『建物の⾼断熱・⾼気密化』と『エネルギーセンター』が計画されています。
包括連携協定を結んでいる株式会社WELLNEST HOMEの協力もあり、分厚い断熱材、トリプルガラスを標準とする⾼性能な樹脂サッシ、⾼効率の設備機器を導⼊することで建物の高断熱・高気密化をすすめることによって、熱需要・電力需要を極限まで低減させます。結果、住む人にとっては、暖かくて快適に生活できるようになることはもちろん、光熱費の負担が大幅に減り経済的負担も減らすことができます。また、地域にとっても、消費エネルギーが抑えられた分を地域の中で還元できれば、地域内での経済循環が増え、地域が豊かになると考えています。
さらに、将来的には地域内で電気と熱を供給する『エネルギーセンター』の設置を計画しています。
「街区内で電気や熱を作り出してそれを各住宅などに供給する仕組み、つまりエネルギーを地域の中で循環させるための設備が『エネルギーセンター』なんです。将来的には作り出すエネルギーに占める『再生可能エネルギー』の比率を高めたくて、いまは、太陽光パネルの実験をしている最中なんですよ」
太陽光パネルのメーカーと共同で、『豪雪地帯のニセコで、果たして太陽光パネルは雪の重みに耐えられるのか』という実験をしているのだとか。結果がよければ、早速第一工区の集合駐車場の屋根への設置が計画されています。さらに、駐車場にはEV充電ブースも設置予定なのだとか。こちらは北海道電力株式会社と包括連携協定を締結し、共同開発や実証実験を進めていくのだと言います。
もう一つの鍵は、『住み続けたくなる地域づくり』のために、あえて余白を残すこと。ニーズや環境に合わせた更新が可能な柔軟な計画づくりをしていることも余白の一つですが、そのほかにもこの街区にはたくさんの余白が残されています。
例えば、街区のど真ん中に計画されている約250m×約50mほどの芝生の広場。例えば、多様な使い方ができる共有の空間。
「広場は、子ども達が元気に走り回ることはもちろん、夏はバーベキューをしたり、ビアガーデンのようなイベントが開催できるかもしれません。例えば、週に一回、普段はなかなか行けないお店が移動販売で来て買い物ができたり、町の飲食店さんに来てもらってお昼時は日替わりランチが楽しめる地域食堂ができるかもしれません。はたまた、画面越しにお医者さんに診察をしてもらって、近くのドラッグストアで薬を処方してもらう、なんてことができるかも。そんな余白を残して、街区内外の住民の方々のニーズに呼応できるような、新しい取り組みを挑戦できるような場所でありたいと思っています」
ニセコ町民と心地よい関係性を築く
株式会社ニセコまちが目を向けているのは、SDGs街区だけはありません。街区に住む方々だけが便利・快適に暮らせるのではなく、ニセコのまち全体を快適にすることをミッションとして、取り組んでいます。
いままで住んでいた大きな戸建から、SDGs街区に移り住む」という町民が増えてきたら、市街地の空き家の断熱改修や再活用にも取り組んでいきたいのだとか。SDGs街区の開発をきっかけにニセコのまち全体が住みやすくなるというのがこの計画の素晴らしいポイントです。
また、街区のことを知って親しんでもらいたいという思いから、町民の方々から集まったアイデアから街区の愛称を決めるという試みも。ニセコ町民や周辺市町村の方々を中心に公募したところ、117件もの応募があったのだそう。今後もSDGs街区の取り組みは、様々な取り組みを通して徐々にニセコ町や周辺市町村に親しまれていくことになるでしょう。
高性能な住宅を供給し、住民たちが住み続けたくなるまちづくりをする。『ニセコ町が世界に誇る持続可能なまちとして、価値を高めていく』をビジョンに掲げ、いまニセコ町での暮らしているひと・これからニセコ町で暮らす人々を最優先する「株式会社ニセコまち」だからこそ、まちとともに成長する素敵な街区を作ってくれるに違いありません。
『SDGs街区』から目が離せません。是非皆さんも注目してみてくださいね。