部の遠征費は、自分たちで稼ぐ!離島の高校で生まれた、部活動のための部活動『オクシリイノベーション事業部』|Domingo

部の遠征費は、自分たちで稼ぐ!離島の高校で生まれた、部活動のための部活動『オクシリイノベーション事業部』

ひと

奥尻町

北海道の南西端に位置し、澄んだ海や豊かな自然、おいしい海産物などで知られる奥尻島。島から見える海の青は“オクシリブルー”と呼ばれ、その美しさに魅了された観光客が数多く訪れます。海産物のなかでも特に有名なのが、ウニ。こちらも、毎年たくさんの人がシーズンを楽しみに待っています。 そんな奥尻島に唯一ある高校が、北海道奥尻高等学校。日本各所から海を渡って入学し、下宿先から通学する“島留学”の生徒が半数を占める珍しい学校です。

素晴らしい環境で高校生活を過ごすことができる反面、離島ゆえの悩みもあります。それは、島外で行われる部の大会に参加するための交通費や宿泊費が、他校に比べてかさむこと。なんとか解決できないか、と考えた生徒が、周りの協力を受けて立ち上げたのが『オクシリイノベーション事業部(以下:OID)』です。
これは、奥尻高校の部が島外で活動するための諸経費を自分たちで確保する目的をもった、まさに「部活動のための部活動」。どんな活動を行っているのか、その内容に迫ります。

オリジナルTシャツの売上金を部の遠征費に。

奥尻高校には、野球部、卓球部、バレーボール部、吹奏楽部、ボランティア局の5つの部局があります。しかし、たとえば野球部の場合、島外に練習試合に行くだけで、都市部や郊外の高校と比較して約2万円の諸経費が余分にかかってしまうのです。

「部の遠征費がかさんで厳しい」という話を聞き、この問題を解決したいと3人の生徒が立ち上がったのは2017年のこと。奥尻町のより良い未来を作るために活動している、一般社団法人イクシュンシリ・デザインの協力のもと、クラウドファンディングで遠征費の支援を募りました。リターンは、生徒がデザインしたオリジナルTシャツ。結果、目標額を上回る150万円以上もの支援金が集まったのです。これが、OIDの原点になりました。

クラウドファンディングページ

クラウドファンディング

その翌年の2018年、OIDは部として正式に発足。初年度はオリジナルTシャツを町のイベントで販売して収益を得るほか、町の特産品である日本酒『奥尻』生誕5周年記念のラベルをデザインしたり、町の工事用の囲いにウォールアートを施したりと、企業とも連携しながらOIDの取り組みを知ってもらう活動にも力を入れてきました。

遠征費を稼ぎながら、OIDの活動も広く発信する。

現在の部員は2年生4人、1年生3人の、計7人。Tシャツやトートバッグなどのデザインを考えるデザイン課、OIDの活動を発信するプレゼン課、イベント時の会計などを担当する書類課の3つの課で構成されています。

トートバッグ写真①

野球、卓球、吹奏楽などの部のシンボルと、奥尻の海がデザインされたオリジナルトートバッグ

デザイン課の2年生、竹迫小春さんは「部活動を支えるのがOIDの目的なので、Tシャツやトートバッグなどのデザインには各部のシンボルや、奥尻の自然を取り入れるなど、いろいろとアイデアを出しています」と、自分なりの工夫を教えてくれました。

プレゼン課兼部長の吉田璃乃さんは「2021年には、全国の高校生を対象に地域活性化策を募る『田舎力甲子園』でOIDの活動について発表し、優秀賞を受賞しました。また先日、農村漁村地域の魅力を高める活動を発信する『わが村は美しく─北海道』運動でもプレゼンしてきたところです。こういったコンクールに参加すると、奥尻以外のさまざまな地域の特色を生かした取り組みを知ることができて、大きな刺激になりますね」と話します。

田舎力甲子園①

オンラインで行われる『田舎力甲子園』でプレゼン中のふたり

これらに加えて、プレゼン課は奥尻高校への来訪者に向けてOIDの活動内容を説明する役割も担っています。最初は緊張してしまうという部員がほとんどですが、徐々に自信を持って話せるようになり、みんな3年間で大きく成長するようです。

「中学生までは人前で話すことが苦手で、緊張したり、声が小さくなってしまったりしていたんです。でも何度もプレゼンを経験するうちに、ちゃんと目の前にいる人に伝えなきゃ、という思いで話すことができるようになり、周りからも『前より堂々としてるね』と言われるようになりました」と、自分の成長も十分感じている様子の吉田さん。

内閣府来島②

来訪者にOIDの活動をプレゼン中

まだ入りたての1年生も、やさしい先輩のもと、少しずつ活動内容を覚え始めています。書類課の坂上ななみさんは「今度行われるシンポジウムの司会に立候補させていただきました。OIDに入ってまだ間もないですが、たくさんの人と接して、少しずつ自信がついてきているのがわかります。自分が苦手だったことが、少し克服できたような気がしてうれしいんです」と明るい笑顔を見せてくれました。

高校生のうちから、将来につながる経験ができる。

ところで、部員のみなさんはなぜOIDに入ろうと思ったのでしょうか?

「入学前からOIDの存在は知っていて、奥尻高校にしかない部という点でまず興味が湧きました。お金を扱うこともあり、高校時代から将来につながる経験ができるのではないかと思ったんです」と話すのは、2年生の星千夏さん。

また1年生の藤川寧音さんは、入学後にOIDの説明を聞いたそうですが、星さんと同様「他の高校にはないし、物販やプレゼンの経験もできて、苦手なパソコンも使えるようになるかもしれない。将来に役立てられたらと思い、入部しました」とのこと。楽しみながら実益につながるところは、やはり魅力的です。

2017年のクラウドファンディングから5年。OIDの存在は、奥尻町内はもちろん、北海道、ひいては全国に知れ渡り、協力者も増え続けています。

「今年の冬に、ぶどう栽培からワインづくりを行っている奥尻ワイナリーさんから『会社のロゴをつくってほしい』と依頼を受けて、4種類デザインさせていただきました。今年いっぱいをかけて4種類のロゴを実際に使用し、最終的に正式なロゴを決めてくださるそうです。これはすごくうれしいことでした」と話すのは、デザインを担当した星さん。まるで、プロのデザイナーのような仕事ぶりです。

ワイナリーロゴ②

星さんがデザインした『奥尻ワイナリー』のロゴマーク4種

また創部当初からOIDの活動内容に着目してくれていた株式会社良品計画の協力を得て、2019年から毎年、無印良品シエスタハコダテ店内で『奥尻マルシェ』を開催。多くのメディアに取り上げられ、たくさんのお客さんが来てくれています。

「昨年は事前に宣伝を見て来てくださったお客さまも大勢いらっしゃって、奥尻マルシェが注目されたことがうれしかったです。遠征費を支えるためにがんばってね、函館に来てくれてありがとう、など、温かいお声がけにも本当に感動しました」(竹迫さん)

当日はOIDのオリジナルグッズのほか、奥尻のウニを使った商品や、島唯一のカフェが作るお菓子やパンなどを販売。2日間開催しましたが、イベントの終了前に完売したものも多くあったといいます。

奥尻マルシェ①

奥尻マルシェでお客さま対応中

活動を通じて、奥尻の魅力も知ってもらいたい。

顧問を務めるのは、奥尻高校に赴任して3年目の小笠原洋志先生。「普段は個別で作業をすることも多い部員たちですが、それぞれが『いいものをつくりたい』という大きな目標に向かって心をひとつにがんばっています。僕たち教師は生徒の裏方に徹し、サポートしながら一緒に面白いものをつくっていきたいんです」と話します。

そんな生徒たちの活動や普段の生活を、先生をはじめとする島全体で、みんなが温かく見守る空気が奥尻島にはあります。

「私と竹迫さんの下宿先の、おじさんとおばさんが本当にやさしいんです。ごはんもおいしくて、シーズンになるとウニ丼も食べさせてくれるんですよ」と星さんが話すと、吉田さんは「そうそう!雨の中を歩いていたら『乗って行きな』と車に乗せてくれたり、お菓子をくれたりする人もいらっしゃるんです。離島らしい絆の強さを感じています」と続けます。藤川さんは、学校帰りに「これあげるよ」と声をかけてくれた町の人にもらった服を愛用しているそう。

人だけでなく、奥尻の自然も魅力的。OIDの部員は全員、島留学生のため、よりこの豊かな環境に感動するようです。

海④

星さんは、学校帰りにカバンを投げ捨てて、海まで走って夕日を見に行くこともあるのだとか。坂上さんも、海の向こうからのぼってくる朝日や夜中に見える満天の星空を「すごくきれい。奥尻だからこそ見られる、特別な風景です」と話してくれました。

こうして島に愛着を持てば持つほど、島のいいところをもっとみんなに知ってもらいたくなります。OIDの部員たちは「部活動のための部活動」としての活動を続けつつ、町の広告塔として、大好きな奥尻島を全国にPRし続けているのです。

OID オクシリイノベーション事業部(OID)

2017年に部活動の遠征費の一部を賄うことを目的として行われたクラウドファンディングが前身です。その後,一度きりではなく継続的に部活動を支援していくために、オクシリイノベーション事業部(通称:OID)という名称で2018年から部としての活動を始めました。「部活動を支援する部活動」として、発信活動やオリジナルグッズの販売活動などを行っています。

ライタープロフィール

仲野さん 仲野聡子

生まれも育ちも日本一人口の少ない鳥取県。高校卒業後に上京し、東京に20年ほど住んだのち、2017年8月に喜茂別町に家族と移住しました。羊蹄山麓の澄んだ空気や豪雪を楽しみ、日々人の温かさに触れています。


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