
Domingo編集部
今回は、イベントにかけてきた思いや最終回への意気込みを、主催者メンバーの一人である南紹子さんにうかがいました。
音楽好きの仲間が集まって始まったフェス

2014年、ファクトリーホールを会場にした「OTO TO TABI」(Photo by YURI)
――まず、「しゃけ音楽会」のこれまでの歩みを教えてください。
南紹子さん(以下「南」):このイベントは、2011年から2021年まで開催されていた冬の音楽フェス「OTO TO TABI(おととたび)」が前身です。北海道は夏フェスが多い中、冬に楽しめるイベントを目指してスタートしました。
第1回は「エスタ」11階の「JRタワー プラニスホール」で、アコースティック中心の小規模な開催でしたが、徐々に規模が大きくなっていき、ファクトリーホールやZepp Sapporoなども会場に。2016年からは、芸術の森のアートホール5会場で同時開催にし、雪のステージなど冬ならではの演出も取り入れながら、音楽好きの冬の楽しみを広げてきました。
その後コロナ禍で中止や小規模開催を余儀なくされ、2022年からは「しゃけ音楽会」として再スタート。会場も夏の「芸術の森」野外ステージに変更しました。

2022年、芸術の森野外ステージでの様子(Photo by Asako Yohikawa)
――南さんが運営に関わることになったきっかけは?
南:私は第1回目から関わっています。当時、ただの音楽ファンとしてチケットを買っていたんですが、mixiで中学時代の同級生が「OTO TO TABI」の告知をしているのを見かけて、「あれ?なんで宣伝してるんだろう?」と思って聞いてみたら、その同級生と後輩が主催していたんです(笑)。それで「手伝う?」と誘われ、急きょ運営に加わりました。
――初めてのイベント運営、不安はありませんでしたか?
南:大学では学祭の実行委員をするなどイベント企画に携わったこともありましたが、ライブイベントの運営は初めて。でも、周囲のメンバーもほとんどが素人同然。友達や恋人、そのまた友達など、いわゆる“ノリ”で集まったメンバーばかり。でもその分、「音楽が好き!」という気持ちだけは誰にも負けなかったですね。音響だけはプロにお願いしましたが、他は手探り。結果として大きなトラブルもなく終えられて、非常に楽しかったので、続けていくことができました。

2019年、冬開催の会場の様子(Photo by Asako Yohikawa)
コロナ禍で直面した“継続の危機”

2022年、“密”対策のうえで実施された「しゃけ音楽会」(Photo by Asako Yoshikawa)
――コロナ禍では大きな打撃を受けたと聞いています。
南:2020年の冬、感染拡大が急速に進んだ時期でした。雪まつりの影響もあり、札幌は全国的にも早い段階でクラスターが起きて、「OTO TO TABI」も中止せざるを得なくなりました。コロナもまだ未知のウイルス同然の扱いを受けていましたし、ネットのニュースでも「最初に中止になったフェス」として取り上げられて、皮肉な形で注目されてしまって……。
――そこから小規模化しての継続に踏み切ったんですね。
南:9月には札幌PARCOの屋上で100人限定のライブを実施しました。翌年の開催を見据えた“練習”の意味合いもありました。手応えは感じたのですが、やはりコロナの影響は長引いて、収容制限や、会場の使用中止の可能性があるなど課題が山積みに。感染者が増える冬の開催は断念し、2021年の夏に「OTO TO TABI in GREEN」を開催しました。その後も先が読めない状況が続いたため、2022年からは「しゃけ音楽会」としてリニューアルすることになったんです。
――「しゃけ音楽会」という名前にはどんな意味が込められているのでしょう?
南:「OTO TO TABI」は非日常感を打ち出していましたが、「しゃけ音楽会」はその逆で、“日常の延長”を意識しています。人生の節目で一度フェスから離れた人も、数年後に家族を連れて帰ってこられるような場所にしたい、という思いを込めました。スタッフや出演者も含めて、みんなが“鮭のように戻ってこられる”フェスにしたかったんです。

2023年、子どもたちも自由に楽しむ「しゃけ音楽会」(Photo by minaco.)
今年でラスト!でも雰囲気は“いつものまま”

2024年、開催の様子。会場の飾り付けも手作りの装飾(Photo by minaco.)
――いよいよ今年で最後の開催となります。
南:これまで続けてこられたのは、あくまで“好き”という気持ちが原動力でした。でもやはりコロナ禍での負債が大きくて……クラウドファンディングにも挑戦しましたが目標には届かず、継続は難しいと判断しました。
本来なら昨年で終わるつもりだったんですが、「もう一度やってほしい」という声が多くて。その声に後押しされ、今年は“15周年”という節目にふさわしい、最後のフェスとして開催することに決めました。「気づいたら終わっていた」じゃなく、ちゃんと「最後」と伝えられるのは幸せなことだと思います。
――最後の開催、どんなイベントになりそうですか?
南:「しゃけ音楽会」らしさを大事にしたいと思っています。自然に囲まれた穏やかな会場、芝生の傾斜からステージがよく見えるつくり、授乳室やキッズスペースも完備で、小さな子ども連れでも安心して楽しめます。
出演者も、ビッグネームから北海道在住のアーティストまで幅広く登場予定です。普段なかなか知る機会がない地元ミュージシャンの魅力も感じてもらえたらうれしいですね。毎年好評の「Streetlight Brewing」とコラボしたクラフトビールも販売予定です。音楽はもちろん、飲食やお買い物も楽しんでもらえる空間になると思います。

子どもが楽しめるキッズエリアも用意されている(Photo by minaco.)
――主な出演者についても教えてください。
南:ヘッドライナーは「スチャダラパー&STUTS」です。今年はスチャダラパーのデビュー35周年で、東京や大阪でも記念公演を行っているタイミング。久々の札幌公演なので、ファンの方はお見逃しなく!
ほかにも、ヒップホップアーティストの「KMC」、女性ラップユニット「chelmico」、札幌からはニューウェーブ・テクノ・ポップバンド「LAUSBUB」が出演します。ほかにも素敵な出演者が控えていますので、公式HPでぜひチェックしてみてください。
――最後に、読者へのメッセージをお願いします。
南:「最後だから」と気張るというより、いつもの「しゃけ音楽会」を、ちゃんと終わらせたいという気持ちです。しばらく来られなかった方も、ぜひ“鮭”のように戻ってきてほしいし、初めての方も大歓迎。ぜひ、最後の「しゃけ音楽会」を一緒に楽しみましょう!

飲食や雑貨の出店もたくさん!(Photo by minaco.)
南紹子

1984年生まれ、北海道深川市出身。2011年に第1回「OTO TO TABI」運営に参加し、後に主催メンバーの一人となる。現在は喫茶ギャラリーを経営しながら、「しゃけ音楽会」のアーティスト担当、広報を務める。
OTO TO TABI presents しゃけ音楽会2025

■開催日時:6月21日(土)OPEN 10:30 / CLOSE 20:00
■会場:札幌芸術の森 野外ステージ(札幌市南区芸術の森2丁目75)
■料金:前売り10,000円(10代と学生は当日会場にて身分証を提示で3,000円キャッシュバック)、当日券11,000円
■問い合わせ:info@otototabi.com
「OTO TO TABI presents しゃけ音楽会2025」の詳細や地図情報はこちら
ライタープロフィール
雑誌・書籍編集者&ライター 山下 恭平
ラジオ局で番組制作の仕事をしながら、ミニコミ誌の制作や雑誌のライター業を始める。その後、編集者として出版社に入り、タウン情報誌をメインにさまざまな記事を手掛けてきた。好きなことは料理、山登り、川釣り、札幌の石碑。札幌市南区在住で、南区をこよなく愛している。