まちの入り口をデザインする。一度離れた釧路にUターンし、まちを面白がり続ける名塚ちひろさん|Domingo

まちの入り口をデザインする。一度離れた釧路にUターンし、まちを面白がり続ける名塚ちひろさん

釧路市

ひと

道東・釧路のゲストハウスといえば、『ゲストハウスコケコッコー』を思い浮かべる方もいらっしゃるのではないでしょうか。釧路市阿寒町で暮らし、一度聞いたら忘れないこちらの宿を営むのは名塚ちひろさんです。

活動はそれだけではありません。「くしろにもっとユーモアを」がテーマの『市民団体クスろ』、「理想を実現できる道東にする」をVISIONに掲げた『一般社団法人 ドット道東』でディレクター、デザイナー、カメラマンとして活躍。道東のクリエイティブシーンには欠かせない人物なのです。

釧路や道東を面白くするべく動き回る彼女の、これまでの活動を伺いながら、まちへの想いを紐解いていきましょう。

地元が嫌いで、都会に憧れていた。

釧路市で生まれ育った名塚さん。高校卒業まで釧路市で過ごした後、大学進学を期に函館へと移り住みます。

「典型的な、『地元が嫌いで、都会に憧れているタイプ』で(笑)。学びたかったデザインの分野を学べる、はこだて未来大学に進学しました。函館が好きだったしちょうどいいなあと思って」

名塚ちひろさん

photo by kazuma saki

大学卒業後は東京の会社に就職。デザイナーとして社会インフラシステムのデザインや新規ビジネスのプロモーションに携わっていたといいます。就職して3年目、仕事が少しできるようになり『この仕事、向いてないんじゃないかな』という壁にぶち当たり、何か違うことがしたいという思いがふつふつと湧き上がります。

そこで立ち上げたのが『市民団体クスろ(以下クスろ)』でした。

「当時全国的に、地域系の新しいプロジェクトが始まっていたんです。会社のお昼休みによく眺めてたんですが、いくら探しても釧路のプロジェクトが出てこなくて。『相変わらず釧路はイケてないなあ…』とモヤモヤした思いを抱えていました。でもちょうどその頃、季節外れの帰省をして会った高校の友達にそんな話をしたら『ないなら、自分達で始めちゃえばいいじゃん』と言われたんです。それで、『やっちゃおっか!』ってその友人と一緒に始めました」

クスろ

くしろにもっとユーモアを! 画像提供:クスろ

クスろを立ち上げてから2年間、名塚さんは釧路と東京を月1回で往復する生活を続けていました。しかし就職して6年目、30歳になるというタイミングで転機が訪れます。

「このまま会社勤めをするのか、何か新しいことを始めるのかと悩んでいて。それと同時に、月1回しか帰らない状態で釧路のことをやろうとすると自分が『お客さん』っぽくなってしまって、コミュニティにコミットできていないことを課題に感じていたんです。釧路は若い人が足りないって話もよく聞いていたし、35歳で帰るより30歳で帰った方がまちの役に立てるかなと、会社を辞め、東京から釧路にUターンししました」

釧路

photo by kazuma saki

『釧路に住みたい!』と選んで住んでくれる人を増やす。

まちづくりや地域活性といった大きな志からではなく、自分達らしいやり方でまちのことを発信したり、楽しくしたい。そんな思いから、『釧路』と『まちをクスっとさせたい』をかけ合わせ『クスろ』と名付けた、おふざけとダジャレと空元気でまちを面白がる市民団体が2014年に結成されました。クスろではどんな活動をしていたのでしょうか?

「まずはWebサイトをつくって釧路の魅力的な人を取材して、地域外の人に向けて発信しはじめました。それと同時に、まちに住んでいる人たちに向けてまちづくりをテーマにしたワークショップも開催しましたね」

2014年に行われた第2回クスろワークショップ

2014年に行われた第2回クスろワークショップ 画像提供:クスろ

ワークショップでは、『どんな釧路にしたい?』『釧路にくるお客さんをどうもてなしてる?』『こんな釧路だったらいやだ!』などをテーマに、思いや課題の共有ができるような場づくりを行いました。

当時、釧路を離れて10年近く経っていた名塚さんは、ワークショップでまちの現状をキャッチアップします。まちで面白い活動をしている方々や移住してきた方々の存在や思いを知り、釧路の面白い人や魅力を再認識する一方で、移住者には釧路より十勝が選ばれていること、転勤などで嫌々釧路に住んでいる人が多いこともわかってきました。

「それからは『釧路に住みたい!』と選んで住んでくれる人を増やすことを目標にしています。どの町を選ぶかって、最終的には『人と人との相性』だと思っているんですよね。夏場は霧が多いし駅前は廃れ気味だし…と何かと暗いイメージを持たれがちな釧路。クスろが活動することで『こんなに楽しいことしてるひとがいるんだ!』とか『こういう人たちがいるなら住んでみたいな』と思ってもらえる一因になれればと思ってやってます」

クスろメンバー

クスろオリジナルグッズ『946キャップ』と『9464649Tシャツ』を身に纏ったクスろメンバー 画像提供:クスろ

釧路の面白い方々の取材・発信やワークショップから始まったクスろの活動。現在は『釧路らしさ』と『クスろのユーモア』をかけ合わせて、オリジナルグッズの制作・販売などを行っています。

たとえば、『釧路におふざけたっぷりなお土産を作りたい』との思いから誕生したのがクスろのおふざけキーホルダーシリーズ。釧路が誇るアレコレがラバーキーホルダーになっています。

おふざけキーホルダー『無量寿』

おふざけキーホルダー『無量寿』 画像提供:名塚ちひろさん

おふざけキーホルダーの1種、『無量寿』は釧路の老舗蕎麦屋『竹老園 東家総本店』の知る人ぞ知る一品。ごま油を絡めた冷たいお蕎麦に、海苔とネギ、卵の黄身がのっかった、たまらなくおいしいオリジナルメニューなんだそう。

無量寿

竹老園 東家総本店の『無量寿そば』 画像提供:名塚ちひろさん

「意外と、地元の方でも知らないことがたくさんあるんですよね。学校で授業をする機会があるので聞いてみると、無量寿食べたことがないっていう子が結構いて。『釧路ならではの食べ物、他に何があるんですか?』とよく聞かれるので、そういうインプットにもなったらいいなと思って、今は無量寿のように『釧路に昔からあるんだけどまだあまり知られてない食文化』を絶賛調査中です!今年の秋ぐらいに本にしようと画策中です」

みなさんもぜひ一度、クスろのHPを覗いてみてください。とっても面白くて楽しい明るい気分になりますよ。

旅の入り口、そして長く滞在してもらえる場所をつくりたい。

クスろの活動をはじめてから2年が経過し、30歳になるタイミングで東京から釧路にUターンした名塚さん。Uターンしてからは、クスろの活動を続けるとともにフリーランスのデザイナーとして働いていたといいます。

半年ほど経ったある時、釧路に拠点を移したからこそできることをしたいという思いから、『ゲストハウスコケコッコー』を開業しました。

「釧路に対する印象を変えたい、そして釧路を訪れた人に私が知り合った釧路の面白い人たちを紹介したい。それを実現するために、旅の入り口、かつ滞在時間の長い場所であるゲストハウスをつくりたいなと思って。『コケコッコー』って名前は、色々と候補を出す中で、一度聞いたら忘れない、そして1日の始まりや新しくできるゲストハウスを表現できるんじゃないかなと思って名付けましたね」

コケコッコーリビング

ゲストハウスコケコッコーのリビング 画像提供:名塚ちひろさん

ゲストハウスコケコッコーがあるのは、釧路市阿寒町。この場所を選んだ理由は、まちの規模と自然、そして受け入れてくれる環境でした。

「小さなコミュニティの中で新しいことにチャレンジしてみたいという思いがあったんです。北海道らしい自然が残っていて気候のよいまちを釧路周辺を探しているときに、阿寒町に行きつきました。そこで紹介してもらったまちの方々に『ゲストハウスをやってみたいんです』とお話すると、全員『ゲストハウスってよくわかんないけどとりあえず阿寒でなんかやってくれたら嬉しいよ』と言ってくれて。このまちならできそうだと思ったのが決め手になりましたね」

ゲストハウスコケコッコー

ゲストハウスコケコッコー 画像提供:名塚ちひろさん

阿寒町では10数年ぶりのニューオープンだったというゲストハウスコケコッコー。その開業から今年で5年、まちに新しい変化が起こりはじめているといいます。

「いろんなお客さんが宿泊で来てくれるようになった影響かわからないのですが、この5年間で阿寒町に新しく6店舗がオープンしたんです。何かを始めたいと思っているひとの刺激になれたのかなと思うとうれしいですね。
それと、まちの人が案内人になってくれてる感覚があります。普段見ない顔の人が歩いていると案内してくれたり、海外のお客さんが多かった時期には周辺のお店の店主さんが英語勉強して最低限のコミュニケーションができるようにしてくれたり。まちの人たちがどんどんウェルカムになってる感じがうれしかったですね」

阿寒町

photo by kazuma saki

ゲストハウスコケコッコーに宿泊するなら、次の日の予定を決めていなくても大丈夫。名塚さんおすすめのスポットや、景色の良いルートを提案してくれますよ。ぜひ聞いてみてくださいね。

ひとりでは出来ないことも、この仲間たちとなら実現できる。

課題感や思いを持って、『市民団体クスろ』『ゲストハウスコケコッコー』の活動に釧路市内で取り組んできた名塚さん。フリーランスになって数年が経ち、クスろの活動も収束してきていたこともあり、いろいろなことをひとりで進めることに限界若干行き詰まりを感じていたといいます。2018年、そんな名塚さんに次なる転機が訪れます。

「北見や十勝で、クスろと同じくメディアを持っている若い人たちがいることは知っていたので、実際に会って話を聞いてみたんです。すると、同じような悩みや課題感を持っていて。何か一緒にやってみようよという話になったんですよね。純粋に楽しそうだなと思って参加しました」

そのときに実施されたのが、『道東誘致大作戦』という道東地域でローカルメディアを運営しているメンバーが、まだまだ知られていないけれど伝えたくてたまらない道東の魅力を、全国を飛び回って様々なローカル事例を見てきた方々にジャッジしてもらうという企画でした。

「得意分野が全然違う人たちが集まって行ったこの企画は、私が想像できないような方向で大きくなり、いい結果がでました。ここで、タイプが違う人たちと一緒にプロジェクトをすることに、可能性を感じたんです。そんな仲間で、『一般社団法人ドット道東』を結成し、道東のアンオフィシャルガイドブック『.doto』(クラウドファンディングページ / note) をつくろうとなったときには、自分が出来ない新しいことをこの仲間とだったらできるのかなっていう希望もあり、一緒にやらせてもらいました」

2019年に行ったクラウドファンディングではなんと目標金額の330%を超える金額を集め、2020年にはアンオフィシャルガイドブック『.doto』が完成。このガイドブックを片手に道東を旅行する方が増えたり、さらにはこの本をきっかけに道東に移住したという方が現れたりと、道東に大きなインパクトを与える活動となりました。

.doto

一般社団法人ドット道東の中で名塚さんが担当するのは、デザインとディレクション、そしてときにはカメラマンも。道東に根ざした、企画・プロデュース、情報発信、求人情報メディアの運営など活動の幅を広げています。そんなドット道東で大事にしていることをお聞きしました。

「『.doto』などを通して、道東に関わりたいと思っている人が潜在的に多いことが分かったんですよ。なので、そういう人たちとの関わりしろをどう作っていくかということはどんなプロジェクトでも常に求められます。道東や北海道出身のカメラマン、デザイナーとかに仕事を依頼したり、Twitterキャンペーンでもハッシュタグを積極的に使うなど巻き込む人を増やすことを大事にしていますね」

名塚ちひろさん

画像提供:名塚ちひろさん

釧路は『結婚するには最適だけど、いまいち決め手に欠ける幼馴染』。

高校時代までは離れたくてたまらなかった釧路に30歳を前に自ら選択して戻り、釧路や道東を面白くする活動を精力的に行う名塚さん。そんな名塚さんの、釧路というまちに対する印象はどんなふうに変化してきたのでしょうか。

「うーん、見捨てられないという思いはずっとあるんです。でも、すごい好きかって言われると、『ここが一番いいまちで最高だ』って思っているような好きではなくて…」

「人に例えると、『結婚するには最適だけど、いまいち決め手に欠ける幼馴染』(笑)。多分いい人だし、話しててもそこそこ趣味も合うし、きっと結婚したら幸せになれるだろうけど、なんかいまいち垢抜けないしださいし、この人でいいのかな…みたいに思ってるような感じ。だけど幼馴染だから見捨てられなくて、ずっと気になっちゃうみたいな、そんな存在ですね」

きっと今後も釧路を見捨てず、面白く関わり続けていく名塚さんの活動、要チェックですよ。

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名塚 ちひろさん

1986年釧路市生まれ。公立はこだて未来大学大学院修士課程修了。2011年富士通株式会社入社。デザイナーとして社会インフラシステムのデザインや新規ビジネスのプロモーションに携わる。2014年に高校時代からの友人である夏堀とともに市民団体クスろを設立。主にWEBや紙媒体の制作を担当。月1で東京と釧路の往復を続けていたが、2016年、釧路での活動が楽しくなってしまい、富士通株式会社を退職しUターン。フリーのデザイナー・カメラマンとして活動する傍ら、釧路に訪れる人を少しでも増やしたいとの思いから、2017年釧路市阿寒町にて「ゲストハウスコケコッコー」をオープン。 2019年、道東の仲間とともに一般社団法人ドット道東を設立。道東のガイドブック「.doto」をはじめ、道東のクリエイティブに精を出す。
ゲストハウスコケコッコー代表、クスろ、ドット道東理事

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名塚 ちひろ

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