真っ白な十勝平野を犬とともに走る。マッシングワークスが叶えた最高のアクティビティ|Domingo

真っ白な十勝平野を犬とともに走る。マッシングワークスが叶えた最高のアクティビティ

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訓練や繁殖方法も独学で習得。ついに犬ぞりツアーを生業に

ところで、滝田さんは犬ぞり経験者ではありましたが、ツアーを提供するのは初めて。準備については、どのようにして進めていったのでしょうか。

「当時からSNSで、アラスカの原野を切り開いて犬舎を建てているようなパワフルな人たちの情報を集めていたんです。開拓精神に満ち溢れた彼らの姿を見ていると、僕も『やってやるぞ』という気持ちになりましたね。15年ほど前のことですので、当時はまだ若かったですが(笑)」

環境づくりはもちろん、犬の訓練や世話などもすべて滝田さん自身がおこないます。北海道の各所で開催される犬ぞりレースの見学に行き、エキスパートと知り合いになってトレーニング方法などを教授してもらいながら実践してきました。SNSやインターネットで本場・北米の情報を集めたり、参考図書を輸入しては翻訳しながら調べたりと地道な努力もおこない、ほぼ独学で知識を習得していったのです。

こうして、2012年に晴れて『マッシングワークス』を開業。当時はまだ別の仕事を続けながら土日だけツアーを提供し、2014年に本格的に犬ぞりツアーを開始しました。降雪の状態を見ながら毎年12月の半ばごろにオープンし、3月20日ごろ(春分の日)まで楽しめます。

利用者はインバウンドが多く、滝田さんも巧みな英語で接客をおこないます。マッシングワークスの特徴は、利用者自身が犬ぞりを操縦すること。もちろん不安な人は滝田さんがお手伝いしますが、最初にしっかりとレクチャーされるため、必要以上に怖がることはありません。コースは12km。途中、休憩を挟みながらたっぷり1時間走ります。

「うちの犬たちは、ベースが北方犬種のハスキー犬。純血の北方犬種は毛がモコモコしていて寒さに強いですが、北海道とはいえ連日マイナス20度が続くようなケースは稀なため、北方犬種にこの環境はちょっと暑いんですね。そこで、さまざまな犬種をミックスしたアラスカンハスキーにソリを引いてもらっています。最初は7頭からスタートして、現在は40頭まで増えました」

猟犬のイングリッシュ・ポインターや、グレーハウンド、ジャーマン・シェパード・ドッグなど、走るのが早い犬を掛け合わせて生まれたアラスカンハスキー。マッシングワークスの犬たちは、ほとんど滝田さんが繁殖させました。もともと犬種が持っている性質により、犬たちはいきいきとしていつも走りたくて仕方がない様子。

「犬たちは強制的に走らされているのではなく、走りたくて走っています。彼らの欲求も、僕らの心も同じように満たされる遊びが犬ぞりなんです。最初は、犬に対してかわいそうなイメージを持っている人も少なからずいます。でも、スタート前に犬たちが大興奮している様子、そして楽しそうに走っている姿を見て、終わったときにそのイメージが変わる人も多いですね。『犬も人も幸せになれる、最高のアクティビティです』と言われると、やっていてよかったと思います」

夏も犬たちと遊べるようなアクティビティを実現させたい

非日常なイベントでもあることから、時折サプライズの場として使ってくれる人もいるそう。

「数年前に女性の同性カップルがシンガポールから来てくださったときは、猛烈に風の強いブリザードみたいな日でした。途中休憩のとき、僕とスタッフがサッと離れたタイミングでプロポーズ。婚約指輪をめでたく受け取ってもらったあとに、おめでとう!とスノーモービルの座席に隠してあった大きな花束を渡したのですが、猛吹雪で花の半分以上が吹き飛んでしまって(笑)。そんな思い出もあります」

また、ディズニー映画で犬ぞりを見て憧れを抱いた我が子のために、こっそり予約をしてくれたご両親も。内緒で連れてこられて、さあ、犬ぞりだよ!と言われたときにうれしくて泣き崩れたお子さんの姿は、いまでも目に焼き付いています。「そういう場所としてマッシングワークスを選んでくださるというのは、本当に名誉なことです」と滝田さんは目を細めました。

近年は温暖化の影響で、雪の降る時期が遅い、溶ける時期が早いなど、犬ぞりにとってはあまり好ましくない状況が続いています。昔通りにはいかないことを感じしつつ、毎日何度も天気予報をチェックしたり、また犬の健康管理に気を使ったりと、犬にとっても人にとっても幸せな瞬間を体験してもらうために日々努力しているのです。

利用者の犬ぞりシーンをフレームに収めるのも仕事

「犬ぞりは冬限定のアクティビティですので、今後は冬以外にも犬たちと一緒に遊べるような場を提供できたらいいなと思っています」と話す滝田さん。数年前から始めているのが、バイクジョアリングです。雪のないオフロードで、ソリ犬がマウンテンバイクを引いて遊ぶアクティビティで、ヨーロッパではドッグスポーツとして盛んなのだそう。

「犬も人も楽しい時間を過ごせるように」と願う、滝田さんの挑戦はまだ続きます。2023年の犬ぞりツアーは、12月22日からスタート。すでに予約が埋まりつつありますが、雪原の中を犬と走る稀有な遊び、ぜひ体験してみてください。

ライタープロフィール

仲野さん 仲野聡子

生まれも育ちも日本一人口の少ない鳥取県。高校卒業後に上京し、東京に20年ほど住んだのち、2017年8月に喜茂別町に家族と移住しました。羊蹄山麓の澄んだ空気や豪雪を楽しみ、日々人の温かさに触れています。

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