Domingo編集部
仕事が生活の延長線上に。栗山町、壮瞥町で農業を仕事にする【北の大地のジョブサロン(2)】
テーマは「農業編」、ゲストは道内各地で農業に携わる2名。北海道で就農したきっかけや、仕事・暮らしへの想いをお聞きしました。
栗山町/久宝農園 久宝 めぐみさん
兵庫県出身。関西でシステムエンジニアとして働くが、リーマンショック後に退職。北海道鹿追町の農業研修、富良野の農業ヘルパーを経て栗山町で農業生産法人の研修生となる。地域の方々に支えられながら2年間の研修後、2014年春に就農条件の最小面積で就農。
栗山町で就農したきっかけ
農業を志すきっかけとなったのは、2008年のリーマンショックでした。自分で経営したいと思い、電気回路設計エンジニアとして働いていた会社をやめました。
そして2010年、新農業人フェアに参加しました。
北海道の農業のことは全然知りませんでしたが、パン作りが好きで「自分で作った小麦でパン作れたらいいな」という気持ちから、北海道のブースを訪問。
その際、鹿追町の「ピュアモルト農業研修プログラム」を紹介され、その年の8〜10月の3ヶ月間、鹿追町で農業研修をさせてもらいました。
その研修で「農業こそが天職」かと思うくらい農業を仕事にしたくなり、一旦帰って教習所に通い、オートマ限定解除、大型特殊免許を取得しました。
2011年、もう一度北海道を訪れ、富良野市で農協が主催している農作業ヘルパーとして働き、やっぱり北海道で農業がしたいと思って、単身でも受け入れてくれる市町村を探しました。
栗山町に縁がある方に紹介してもらったのをきっかけに初めて栗山町を訪れ、まちの雰囲気やひとがとても気に入り、栗山町で研修をさせてもらうことになりました。
就農するにあたって大変だったこと
「女性が単身で就農し経営者となる」という前例がなく、周囲の理解が得られなかったことが大変でした。そんな時、美幌町で女性2人で新規就農した「ぼちぼち農場」さんを訪問。
「本気だったら性別なんか関係ない」と背中を押してもらい、やっぱり農業をやりたいと決意しました。
なかなか周囲の理解は得られませんでしたが、研修2年目で軽トラックを新車で購入。就農への意欲と本気度を見せると、周りも根負けするような感じになり、やっとの思いで就農までこぎつけます。
研修先からハウス4棟を含む50aの農地を借り、営農を開始しました。
就農にかかるお金
サラリーマン時代の貯金を自己資金として携えていました。農業次世代人材投資資金(当時は青年就農給付金)で、国から1年あたり150万円の交付を受け研修の2年間と就農からの5年間を過ごします。
幸運なことに、最初は機械などを研修先の方が全部貸してくれ、負担が少なく始めることができました。
今作っているものとこれからの展望
今はきゅうり、アスパラ、にんにくをメインに作っており、それらを直売所、JA、スーパーに出荷しています。就農三年目には住宅も購入し、農地の面積を拡大、借用していたビニールハウスも返却しました。
春から秋にかけては、日の出から日没まで外での作業、冬は飲食店や畜産家さんのお家のお手伝いをしています。
今は売り上げがなかなか伸びていないので、今後は売り上げの増加、そして六次産業化に挑戦してみたいと思っています。
農業の魅力
・自分の時間を生きられる独立就農の場合は、時間の使い方は自分次第で、とても自由です。
・生活を仕事が重なり合っている
生活と仕事に分断がなくストレスがないです。サラリーマンをしていた頃は家の中と外でモードが切り替わっていましたが、今は全くそういった二面性がありません。
・心身ともに健康で丈夫になる
エンジニアとして働いていた頃は無機物に囲まれている感じがして、生き物に触れる機会がありませんでした。
十勝ではそこら中に生命があって、有機物、草も木も動物も虫も、キラキラして見えたんです。
自然には嘘がなくて、農家さんにも嘘がありませんでした。これこそが天職だと思っています。
新規就農を志すみなさまへのメッセージとしては、
・あきらめない
・初心に帰る
・自分の好きな農業をする
ということが大事だと思います。
壮瞥町/大作農園 木村 大作さん
洞爺湖町出身。大学卒業後、伊達市の農業法人で農業研修生として2年間働く。貯金が無い中で就農の道を探っていた頃に出身高校のある壮瞥町で就農者支援制度を知る。1年の町内研修を経て2009年にトマト農家として就農。土作りからこだわった多品種のミニトマトを栽培し「ミニトマト狩り」が人気に。
就農したきっかけ
壮瞥町は、洞爺湖、昭和新山、有珠山をはじめとした雄大な自然が魅力の、農業と観光のまちです。人口は2500人程度の小さいまちで、そんな壮瞥町を選んだのは、自然が素敵なのはもちろんですが、まちの人が本当に素晴らしかったんです。
僕は1984年、壮瞥町で生まれ育ちました。とは言ってもサラリーマン家庭で、農業とは無縁。
小学校の頃から、座って授業を受けることを苦痛に感じており、それは中学校の頃も一緒でした。
進学する高校を選ぶ時、農業高校である壮瞥高等学校に体験入学をし、1日の半分は外で研修だというのを聞いて、座学が苦手だった僕は農業高校へ進学することを決めました。
農業高校に行くことに決めたのはそんな動機でしたが結果的には農業が自分にとても合っており、勉強は嫌いだったのに農業に関してはもっと勉強してみたいと思いました。
それまでは大学にいくなんて考えていなかったのですが、農業を学びたくて北海道酪農学園大学農業経済学科に進学。
「将来は農業系の仕事がしたい」と考えていましたが、それは「農家」に限らなかったので4年間色々な道を模索しました。
在学中には農業高校で教師をすることで頭を決め、教員資格をとって、教育実習もしました。
しかし資格のために農業の勉強をする中で、農業の幅の広さ、そしてその一つ一つの奥深さを改めて実感することに。
自分が教壇に立って教えることを考えた時、「これが農業です」と指導するには勉強不足だと感じました。
そこから農家に行って農業を勉強させてもらうことにしました。
大学の長期休みを全部使い住み込みで働かせてもらうなかで、「農業をやって畑の先生として発信していくというやり方が、自分に合っているんじゃないか」と思い、教員採用試験1次試験を通過したところから大きく方向転換をして、農家を目指すことにしました。
壮瞥町を選んだ理由
壮瞥町を選んだ理由としては「1年中農業をしていたい」という思いからです。雪や寒さが厳しい地域では冬は出稼ぎに出なくてはならないところもありますが、僕は1年間を通してずっと作物を作っていたいと思ったんです。「道南」で地域を選定しようとなり、いくつかの市町村の就農窓口に相談しに行きました。
そこでいつも聞かれるのは、「自己資金はあるか」「配偶者はいるか」ということ。
しかし僕は2年間農業研修生として月10万円くらいのお給料で修行をしていたぐらいだったので、お金貯まるような環境ではなく、貯金はゼロでした。
自己資金がないと就農できないという現実を目の当たりにし、何年かお金貯めることも考えました。
しかし、その当時僕は23歳で、出来るだけ若くして農業を始めたいという強い思いがありました。
農業は1年を通して行う仕事で、1年には1回しか経験することができない。なので、80年やっても50回くらいしか経験できないんですよね。
僕には「将来は達人になりたい」という目標があったので、出来るだけ早く農業を始めて修行したかったので自己資金がなくても始められるまちを探していました。
そんな時、壮瞥町の就農窓口に相談をしに行ったんです。
これまではお金や配偶者の話ばかり聞かれていたのが、壮瞥町ではやる気と若さを買っていただき、「やる気があるなら始めてみなさい」と言ってもらえたんです。その後、親方も決まり、24歳で農業者になることができ、それから11年農業をすることができています。
苦労したこと
「自己資金なしで始めた」ということを売りにしているようになっていますが自分はとても苦労したので、自分のところに相談しにきた人たちには、「絶対に自己資金貯めてから始めた方がいい」とアドバイスしています。始めからうまくいく人なんてほとんどいませんし、自分も失敗ばっかりで、食うや食わずの思いをした頃もありました。
また、仕事と生活の時間に区切りがないことで、妻に大変な思いをさせてしまったこともありました。
うちには子どもが4人おり、奥さんは出産と子育てに追われていたため、農園の仕事はほとんど僕ひとりで無理してやっていた時期もありました。
これではいけないと思い、改善に向けて試行錯誤もしてきました。
農業のやりがいや魅力
自分の時間を生きられること、生活と仕事が一体となっているのはとてもいいことだと思います。ただ、農業を始めてから4〜5年くらいはそんなことを考える余裕はありませんでした。
なぜ大変なことも多い中でやってこれたかというと、壮瞥町の方々の助けがあったからです。
壮瞥町は小さなまちなので、「新規就農者が来る」となると目立ち、地域のみんなは自分のことを知っているけど自分は全然わからない、という状態になるんですね。
そういう状況が続くのが嫌で、町内の寄合でも会合でもなんでも顔を出すようにしていました。
そこでまちのみなさんと顔見知りになれて、その中には農家としての先生もたくさんいて、機械貸してくれたり、いろいろなことを教えてくれます。おかげで、今年お米に初挑戦しましたが、いいお米がつくれました。
農家ではない方も、お米や野菜を買ってくれたりして、ずっと助けられてきました。
だから、まちのコミュニティに溶け込むことが、新規就農するにあたって一番大事なことなのではないかと思います。
また、大作農園では消費者と交流したいという思いから、ミニトマト狩りをしています。
コロナ禍となった2020年も、来園してくれる方は増えていて、そこにもやりがいを感じています。