過疎地域への移住と生きやすさ。來嶋路子さんが語る人とのかかわり|Domingo

過疎地域への移住と生きやすさ。來嶋路子さんが語る人とのかかわり

岩見沢市

暮らし

北海道岩見沢市には人口およそ400人、岩見沢駅から車で30分の「美流渡(みると)」という集落があります。美流渡では昨今のコロナ禍でも、変わらず穏やかに時間が流れます。

2021年冬、まっしろな景色の中に佇む長屋にて、美流渡で出版活動を行う來嶋路子さんにお話をお聞きました。

來嶋路子さん

美流渡での暮らしのはじまり

2011年に東京から岩見沢市の市街地に移住した來嶋さん。移住のきっかけは東日本大震災を経験し、自らの暮らしを見直したことでした。
ちょうど震災のときに育児休暇を取得していた來嶋さんは、当時勤めていた出版社に在宅での仕事を可能にしてもらうことを認めてもらい、復帰しました。
2015年まで4年ほどは自宅からリモートで出版社に勤務。そしてその年にフリーランスに転向します。

岩見沢で暮らす中で、來嶋さんは「北海道に暮らしているからこそできることはないか?」と考えます。
東京の友人が北海道に遊びに来ると、気持ちが解放されて元気になって帰っていくのを目の当たりにすることも多くありました。
そこで北海道へ短期・長期での滞在、さらには移り住むという選択肢をも与えられるような「エコビレッジ」を作りたいという思いがふつふつと沸き起こり、2016年春に岩見沢市の宮村地区に山を買うことに。

山の近くに住みたいと考えた來嶋さんは、宮村地区からほど近い美流渡に空き家があると知人から紹介され、2018年に岩見沢の中心街から美流渡へ移住しました。

暮らしの中で思うこと

「東京から美流渡に移住して原稿がスッと書けるようになってきています。」

美流渡に移住して、騒音や排気ガスなどの環境が要因のストレスや待機児童の問題など、東京にいた頃に感じていた「住みずらさ」はほとんど解消されたと來嶋さんは話します。
自然の匂いや音に囲まれながら編集者として働く。深く落ち着いて原稿を書くことができるようになりました。

しかし2020年の緊急事態宣言下で感じた「つらさ」。

「東京にいた時にはできなかったことやストレスだと感じていたことが、美流渡に住むことで解消できていたはずでした。
しかし緊急事態宣言の時、あと2割移住では解決できない本質的な問題があることに気づきました。これまでは外に向かって忙しく仕事をしてきたのですが、外出自粛で3人の子どもと夫と家で過ごす時間が多くなって、自分は子育てが苦手なのではないか、家族をおろそかにしてきたのではないかといった、今まで顕在化してこなかった心の問題が浮かび上がってきたように思いました。」

仕事面・生活面ともに、外に対する不満がなくなった環境で心の声に耳を傾けることができ、ずっと潜んでいた問題に向き合うことに繋がりました。

そんな自然に囲まれた美流渡。どんなまちなのでしょうか。

「美流渡地区にはコンビニやスーパーがないし、行政サービスも市街ほどは行き届いていません。便利で住み良いまちに移住したいと思う人には全く響かない場所と言えます。不動産屋がなく、ネットで家を探すことも難しいので、そうした困難を困難と思わない同じような思考の人が多いという特徴があると思います。
大量生産・大量消費の社会に違和感を抱いている人、環境保護に関心のある人が集まっていて、初めて会った感じがしないことも多々あります。」

美流渡には面白い移住者が1年に3〜4人ほど増えているとお話ししていた來嶋さん。移住者同士で助け合ったり、イベントを作ったりしているそうです。

ごく自然に人々が打ち解けることのできる美流渡。仕事をきっかけにできた、まちの人たちとの関わりもあります。

「北海道の人ってありがたいことに、新しいことをしたい人を放っておかないんですよ。頼まなくても人を紹介してくれて、言われるままにその人に会いに行っていると関係が広がっていきました。
月2回のcolocal(コロカル)の連載では地元の人を取材することもあります。普段聞かない生い立ちなどの深い話を聞くことで、地域の中で打ち解けられるようになりました。」

來嶋さんが連載しているcolocalはこちら。
うちへおいでよ!みんなでつくるエコビレッジ

仕事に対する思いの変化

移り住んできてから、仕事に対するスタンスの変化もありました。

「東京にいた頃はやるべきことや生き方を模索し、自分が何かを生み出そうと必死に動いていました。その時に飛んできていた仕事は上司からで、受け取ることに義務感を感じて苦しかったんです。
しかし不思議なことに美流渡で出版活動を始めてからは、自分で意識しなくてもやらないといけないことが、どこからともなくものすごいスピードで飛んでくるような感覚があります。それを一つ一つ投げ返すことが自分の使命なのかなと思うようになりました。
今は依頼されるお仕事が主ですが、これからは自分の出版活動の比率を少しずつ上げていきたいです。」

來嶋さんは「森の出版社ミチクル」という出版活動を行っています。そこで重きを置いているのは、本を“手書き”で制作し、読んでくれる人に“直接販売”すること。

「通常の本作りでは、クリエイティブな作業と、音声起こしや入稿準備などのそうでない作業がどうしても出てきてしまいます。全ての作業工程をできるだけクリエイティブにすることで、本に熱が込められたまま完成するんじゃないか。そのため『森の出版社ミチクル』では“手書き”という方法で本を作っています。
また一般的な本の流通方法にも疑問を持っていました。なので私は買ってくれる人と“直接”コミュニケーションをして販売する方法を取っています。本を買ってくれる方の温度感や言葉が伝わるので、本作りのモチベーションが上がります。」

『山を買う』

來嶋さんの著書。文字もイラストも全て手書き。

「いなかのほんね」が発売されます

來嶋さんは2019年より、北海道教育大学岩見沢校が実施する「万字線プロジェクト」に参加しています。このプロジェクトは、学生が岩見沢の山あいでアートマネジメントについて学ぶ取り組みです。これまでは閉校になった校舎を利用したイベントなどを開催してきましたが、2020年度はコロナ禍となったため、密を避けて、学生を少人数のグループにして地域の人々に取材し、本を制作する取り組みを行いました。
同校学生26人が岩見沢市の美流渡、毛陽(もうよう)、万字(まんじ)地区に住む人にインタビュー。來嶋さんが編集を務めました。そうして完成した本、「いなかのほんね」が2021年3月19日に中西出版より発売されます。

「移住して環境が変わることで、自分が抱えている心の問題が解決されるわけではないけれども、移住によって新しい発見をしたり外的な生きづらさがなくなっていったり、よりシンプルに考えられるようになるチャンスがあることを感じてもらえたら嬉しいです。逆に言えば、シンプルに物事を考えられるようになるのであれば、どこに住んでいても同じなのかもしれませんが。

コロナ禍で閉塞感がある状況だけど、それをしなやかに生きていく方法ってもしかしたらあるんじゃないか、というもやっとしたヒントになればいいなって思います。都会に住んでいる人でも、参考になるような心の持ちようが詰まっているのではないかと思います。」

『いなかのほんね』

目まぐるしく変化する世の中に迷いや閉塞感を感じている人に、ぜひ読んでみてもらいたい一冊です。

おもしろい人が集まる地域、知っていくと新しい出会いに導かれる気がします。

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