Domingo編集部
そんな作品を見ることができるのが、今ニセコの有島記念館で行われている展示「藤倉豊明・英幸・孝幸 兄弟3人展『3人の歩いた時代(みち)』」です。
北海道岩内町で生まれ育った3人。長男の豊明さんはデザイナー、次男の英幸さんはイラストレーター、そして三男の孝幸さんは写真家として、それぞれ広告デザイン業界で大きく羽ばたいているご兄弟です。
今回ご紹介するのは、北海道の景色を描いた作品で知られる藤倉英幸さん。
道内各地の雄大な景色を切り取り、鮮やかな色彩で表現する作品が魅力的です。観光地ではない、地元のひとが普段使っている道路や列車の車窓から見える風景が描かれており、日常生活の中にある風景を愛おしく感じさせてくれます。「初めて見るのに知っている」そんな感覚を抱く方も多いのではないでしょうか。
まず作品からひしひしと伝わってくるのは、その「あたたかみ」。まるで絵画のような細やかさと色彩は、見る人の心を掴んで離しません。さまざまな画法を試してきた英幸さんがたどり着いたのは、手でちぎった色画用紙の縁に彩色を施し、それを重ねて貼っていくという作品作りでした。
「初期の頃はカッターを多用した貼り絵だったんだけど、カッターの線はシャープで冷たい印象で、あたたかみに欠けるんだよね。だから極力手でちぎってるんです。北海道の風景のあの感じを描くのには、この作風が合っていると思いますね」
数えきれないほどあるピースの1つひとつに色をつけて陰影を表現し、パズルのように、下から順番に貼っていく。「紙の質感」を活かした作品が魅力です。「貼り絵」という手法を用いながらも、「絵画」として見てもらいたいという思いから、貼る紙の表面を削り、厚みを出さないようにするこだわりようです。
26歳で独立したという藤倉英幸さん。30代の頃までは、スポーツ関係のイラストやチラシなど、クライアントのいる広告デザインの仕事をしていたといいます。
「デザインっていうのは、やっぱり流行があるんですよね。デザインやってちゃ長くは続けられないと思ったし、やっぱり絵を描きたかったんだよね。だんだん絵の方に力を入れて、それだけで食べられるようになりましたね」
30代に入って作品として描き始めたのは、北海道の懐かしい場面や遊びでした。この頃の作品は、黒画用紙の切り絵と色を組み合わせたもの。表現の細やかさが、リアリティを持った「懐かしさ」を感じさせます。
こんな懐かしい風景を伝えるには、切り絵という手法が最適だったと話す藤倉さん。どこかに人物が入っていて、それが風景を活かしています。その表情にもこだわりが。
「笑ってるでも怒ってるでもない、なんでもない穏やかな顔っていうか。見る人の解釈で変わるような表情を心がけてましたね。あんまり表情をつけると人物に目が行っちゃうからね」
切り絵作品の時代を経て、藤倉さんが次に描きたいと思ったのは北海道の風景でした。今多くの人に知られている「貼り絵」の作品作りが始まります。
輪郭のはっきりとした線はなくなり、人物は描かれていても後ろ姿。風景を主体とした作品に移り変わっていくのです。
最初の2〜3年は「北海道の冬」をテーマにした作品作りを行っていた藤倉さんが、四季折々の風景を描くようになったきっかけは、JR車内誌の表紙を担当するようになったことでした。
1992年から現在まで、北海道の季節の楽しみを伝える車内誌の表紙を飾っています。
年を重ねれば重ねるほど、作品は次第に細密さを増していきます。2020年に作られた作品『たんぽぽ咲く頃』を見ると一目瞭然。
「一番難しいのが、水面に映る風景なんですよね。おんなじものが映るかっていったらちょっと違うんだよね、遠いからここまでしか映らないとか。美しい風景だし絵として面白いから、難しいってわかっちゃいるけどやめられないんだよね」
無邪気な笑顔で話してくれた藤倉さんに、これからの目標をお伺いしました。
「ずっと絵を描いて生きていきたいなという、それだけだと思うんだ。そして絵を描いて生きているなら、少しでも納得したいし、新しいものを作って ”いい作品に出会った!” というのを味わいたいわけ。自分で作っていながらね。そうすると、どんどん手が込んでくるんだよね。どんどん見えてくるんだもん。仕事やめて何するかって考えてみても、やっぱり絵を描いてると思うんだよね」
26歳で独立し、もうすぐ50周年を迎えるという藤倉英幸さん。「絵を描いて生きていく」ということへの覚悟と大きな喜びが、素晴らしい作品を生み出し続けています。
ぜひ、有島記念館に藤倉さんの作品を観に行ってみてくださいね。
藤倉豊明・英幸・孝幸 兄弟3人展『3人の歩いた時代(みち)』
■開催期間:7月23日(土)~10月2日(日)
「藤倉豊明・英幸・孝幸 兄弟3人展『3人の歩いた時代(みち)』」の詳細をDomingoで見る