Domingo編集部
十勝地方南部の北海道大樹町は「宇宙のまちづくり」を掲げて約40年。2021年に、民間に開かれた商業宇宙港『北海道スペースポート(HOSPO)』が開港し、着実に宇宙に近づきつつあります。まるでSFのような話ですが、この港の整備・運営を務める企業「SPACE COTAN(スペースコタン)」の代表・小田切義憲さんに、日本の宇宙産業のこれからについてお話を伺いました。
『北海道スペースポート』が必要とされる理由
宇宙ビジネスの市場は世界的に年々拡大し、特に小型人工衛星の打上げ需要が大きく伸びています。ロケットは衛星を運ぶための唯一の手段。アメリカや中国を中心に世界の打上げ回数が飛躍的に増加している一方、日本のロケット打上げ回数は年数回に留まり、国内の衛星打上げ需要の多くが海外に流出しているのが現状です。
またロシア・ウクライナ戦争の影響で、世界の宇宙輸送の約1割を占めていたロシアのロケットを日本は使えなくなるなど、国内への宇宙輸送能力の増強が求められています。
そこで、政府が開発するH3やイプシロンなどの基幹ロケットに加え、民間ロケットを活用する動きが始まっています。その流れの一環として、民間企業が利用できる国内のロケット打上げ発射場が求められるようになっていきます。
世界的に民間ロケット事業者が増えている背景をもって、2021年にオープンしたのが『北海道スペースポート』。現在国内には6つの宇宙港がありますが、民間だれもが使えるひらかれた垂直型打上げ発射場を持つのは大樹町のみ。それに加え、滑走路を使用した離着陸も可能な複合型宇宙港も国内唯一。広大な敷地があり、今後のニーズに合わせて新たな発射場を建設できるのも大きな強みです。
設置場所に大樹町が選ばれたのはなぜ?
ではスペースポートの建設場所として、なぜ北海道大樹町が選ばれたのでしょうか。小田切さんは、その理由を3つ話してくれました。
まずは「ロケットの打上げ方角である東と南が海で開かれている」こと。2つ目に「大樹町の海岸線は他の日本の沿岸部とは異なり、自動車道路や線路などが敷設されていないため、ロケット打上げの際の道路封鎖が必要ない」こと。3つ目は、「船や飛行機の航路との干渉が本州と比較して比較的少なく、年間を通して晴天日が多くロケットの打上げに適している」こと。
地理的な理由等から自国に射場を持てない国もあるため、大樹町のスペースポートは「アジアのハブ宇宙港」となるポテンシャルがあります。
世界の宇宙産業市場は2020年に40兆円という規模で存在し、2040年には110兆円を超えるまでに成長すると予測されていますが、この成長にはアメリカや欧州だけでなく、中国、インドなど世界中の宇宙ビジネスの急成長が寄与しています。従来、宇宙は政府主導で開発されてきましたが、民間参入による産業化・商業化の動きも活発です。
一方で、小田切さんによれば日本の宇宙産業は商業化という観点では他国に比べて遅れを取っているそう。だからこそ、少しでも早く事業として盛り上げていく必要があると語ります。
宇宙旅行、ロケット製造だけではない!実は身近な宇宙産業
宇宙産業と聞くと、ロケット製造や宇宙旅行のイメージが先行しがち。しかし実際は、人工衛星を打ち上げたり、それを活用したサービス、地上設備の構築などが全体の割合を占めています。通信、GPS測位、天気予報など、宇宙産業は私たちの生活に密接に関連しています。
そして遠くない将来、ロケットが地球内の移動手段として活用される可能性も。ロケットなどにより宇宙を経由して地球上を移動する「高速2地点間輸送(P2P)」が実用化されれば、飛行機で13時間かかる日本からアメリカへの移動が、なんと40分まで短縮することが可能に。価格の面でまだ課題がありますが、需要が増えれば運賃も改善されていくことが予想できます。
このP2P、アメリカでは実用化が近づいており、その時には日本での受け入れ先が必要となります。大樹町でロケットを受け入れ、ラストワンマイルの移動手段も手厚くしていくのが小田切さんの構想です。
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