Domingo編集部
北海道檜山管内せたな町、夏はエメラルドに輝き、冬は荒々しく白波の立つ海岸を眺める絶景の丘陵で、とある工房の建設準備が進んでいます。2020年に地元にUターンした髙橋広大さんと髙橋友里菜さんご夫妻による、シャルキュトリー(食肉加工)とパティスリー(菓子)の工房、その名は「サッカムセタナイ(Satkam Seta-nay)」。今回はそんな髙橋ご夫妻のストーリーをご紹介します。
一つ星レストランのシェフがシャルキュトリーになった理由
「サッカムセタナイ」でシャルキュトリーを担当する髙橋広大さんは料理の道を志し、2010年から3年間、フランスで料理学校の教師を務めました。フランスでは星付きレストランでも修行を積み、日本に帰国後は北海道の「ミシェルブラス洞爺」に勤務。その後、フレンチの技法と日本料理の伝統を融合した「京都いと」を立ち上げ、フレンチの料理長として日本料理の大河原謙治料理長と共に、ミシュラン一つ星を獲得しました。
広大さんは、渡仏してフランス食文化に感銘を受けて以降、北海道の魅力ある食材を使って美味しいシャルキュトリーを作り、より多くの方にこの魅力を伝えたいと考えるようになりました。2020年、地元の北海道せたな町へ一家でUターン移住をし、実兄の経営する(有)高橋畜産で豚の肥育管理等一連の養豚業を行いながら、週末限定でドライソーセージなどの加工品やお菓子を販売していました。
「サッカムセタナイ」は町外からも買い物客が訪れるほどの人気店だったのですが、生産量に限りがありました。そこで今回、独立開業をすることとなり、せたな町太櫓(ふとろ)地区で工房建設を進めています。
アイヌの食文化「サッカム」と現代の融合
広大さんは、ドライソーセージなどの食肉加工品の背景となるヨーロッパ・フランスの食文化を考えたとき、日本にそのままインポートしただけでは、コピーで終わってしまうのではないかと考えました。そんな時知ったのが北海道で語り継がれてきた、アイヌの食文化「サッカム」です。
サッカムはいわゆる「干し肉」で、鹿肉などを乾燥・熟成させた食肉製品のこと。これを知った広大さんは、これが生ハムやドライソーセージなどに繋がる食文化ではないかと考えました。自身がフランスで学んできた食肉加工の技術と知識で、現代の食文化と嗜好に合わせた進化させた「全く新しいサッカム」を届けることで、北海道の食文化をより豊かにし、この自分が生まれ育った地域をさらに魅力あるものにできるのではないかと思い立ったのです。
この地の先住民族アイヌ独自の文化である「サッカム」と、現代の食肉加工技術・食文化とが融合し、全く新しいものに生まれ変わることで、髙橋夫妻の考える「前菜からデザートまで」をモットーとした「食のトータルコーディネート」に、新たな深みが生まれることとなりました。