Domingo編集部
阿部貴之がファッションデザイナーをつとめるブランド「Maison Noumu(メゾンノウム)」は、北海道音更町の離農跡地にひっそりとアトリエを構えています。そのアトリエで生まれるレザーを用いたバッグや財布といった彼の作品はどれも美しい。
1. イタリア・ミラノを拠点に活動していた実力派
2. 闘病生活を乗り越え、Uターンで立ち上げた「Maison Noumu」
3. 希少な生地でつくるワンサイズ。noumuは貴方だけの運命の一着
4. 十勝で営まれる心躍るアトリエ
イタリア・ミラノを拠点に活動していた実力派
阿部貴之は帯広出身で、帯広三条高等学校を卒業後、東京のファッションスクール「バンタンデザイン研究所」でファッションデザインを学びました。彼はナゴヤファッションコンテストに入選し、翌年の2010年には世界一の応募総数を誇るファッションコンテストで新人デザイナーファッション大賞において秀作賞と特別賞をW受賞。
その結果、イタリア・ミラノにある総合芸術の大学院「NABA Nuova accademia di belle arti」への留学権を獲得。翌年にバンタンデザイン研究所を首席で卒業し、ミラノへ留学しました。
在学中には、パリの「ポンピドゥーセンタービル」で開催されたアニメーション作品展示に参加するなど、幅広い活動を行いました。また、世界的なファッションデザイナーであるロメオ・ジリやチンツィア・ルッジェリから作品が高く評価され、ミラノで「dear lovers」という個展を開催するなど、期待の新人として目覚ましい活躍を見せました。
その後、阿部貴之はイラストや洋服作りなどの芸術活動を通じて障がい者支援に力を注いできました。2018年には、さまざまな障がいを持つ人たちと共に制作した作品展「人間の在りか」を東京の青山で開催。そして2021年9月11日に音更町にアトリエを設立し、自身のブランド「noumu」を立ち上げました。ブランド名の「noumu」は「濃霧(ノウム)」を意味し、皮革素材を使用したモダンで深みのある印象的な作品を創り出しています。
闘病生活を乗り越え、Uターンで立ち上げた「Maison Noumu」
ミラノから北海道へ戻るきっかけとなったのは、大うつ病の発症。一度は諦めきれずミラノに戻りましたが、症状は悪化し、5ヶ月後に完全帰国。その後、5年以上の闘病生活を送ることに。その時期に出会った精神哲学者ヴィクトール・フランクルの精神哲学は、彼のブランド「noumu」を立ち上げるコンセプトのきっかけのひとつとなりました。
「結構しんどい闘病生活を経た後、ファンタジックだったコンセプトがより哲学的で実存主義的なものづくりへと変化しました。物は代替可能な存在であるのに対し、人間という存在は誰一人として代替不可能な存在ですよね。代替不可能な個々の人が、ある時代替不可能な世界で1着の洋服や革の鞄、革の財布に出会うことで、人生において人間が実現可能とされる存在の価値の追求を図ろうとする哲学的な取り組みへと変化したのです。」
希少な生地でつくるワンサイズ。noumuは貴方だけの運命の一着
アトリエを見渡すと、レザーを用いた作品が多いことに気づきます。その理由を尋ねると。
「学生の頃から革ばかり使っていて、さらに偶然にも留学したイタリアが革の名産地だったので、導かれるがままに革の魅力に吸い込まれました。まるで洋服が呼吸しているような感覚がたまらないんです。私たちの祖先の原始人が革を身に纏った時から、自然の摂理に適っているよなぁって。」
展示されている洋服の大半がレザー。そしてワンサイズ。それにも大きな理由が。
「オーダーメイドも受け付けているんですけど、僕の作る洋服にはロッドナンバーがあって、生地は貴重なデッドストックしか使わないので1着か2着しか作ることが出来ません。世界に1,2着しかない洋服とそのサイズやデザインが運命に導かれ誰かの手に渡るストーリーって、ドラマチックで素晴らしいと思いませんか。noumuでは、ただ服を作るだけでなく、そんな貴重な体験価値を提供したいのです。」
十勝で営まれる心躍るアトリエ
そんな想いから生まれるnoumuのファンは多く、自分にぴったりな一点をじっくりと見つけたいと通う方も。作品が魅力的であることはもちろん、イタリア時代のエピソードやデザインに関する話題など、ちょっと人見知りではありながら、通うと少しずつ自分のことも話してくれる彼との会話を楽しみにしている人も多いはず。
また、闘病生活のことも隠さず話し、同じうつ病に悩む人を支援したいという思いから、芸術作品を通じた克服活動もアトリエで週に1度ほど行っています。
現在、アトリエではnoumuの作品のほか、革のメンテナンスに必要な道具や彼が気に入っている雑貨類も多数取り扱っています。
noumuは、十勝にいながらどこかイタリアにいるような、アパレルショップでありながら美術館に訪れたかのような、心踊るアトリエ。オンリーワンとの出会いを求め、ぜひ訪れてみてはいかがでしょうか。
Maison noumu
■住所:北海道河東郡音更町東和東2線59番地9
■営業時間:火・水曜日 11:00-15:00 / 土曜日 12:00-18:00
※その他の曜日はアポイントによりご対応致します。
■Instagram:nou.mu
ライタープロフィール
鹿女 / 編集者 中村 まや
宮城県出身。グルメメディアの編集者から猟師へと転身。”鹿女まやもん”という愛称で親しまれている。おいしく命をいただくことをモットーに、鹿を獲るところから精肉まで一貫して行う。また、ロゴやパンフレットのデザイン制作やライター業、イベントの企画運営などフリーランスの編集者としても積極的に活動している。