十勝の街中と地方、そして地元の人と外から来た人を、つないでいく存在に 。『HOTEL NUPKA』坂口琴美さんにインタビュー|Domingo

十勝の街中と地方、そして地元の人と外から来た人を、つないでいく存在に 。『HOTEL NUPKA』坂口琴美さんにインタビュー

地元・十勝で、地域の人にも開かれた宿泊施設が誕生

とかち東京クラブ

『とかち東京クラブ』のみなさん

十勝出身の東京在住者が集まる『とかち東京クラブ』は、十勝関係の人が経営に関わるお店で会を開くことが多く、私のハンバーガーショップも利用してもらっていました。私が宿やシェアハウスを始めようとしていることも知られていったのですが、ある日、東京で弁護士の仕事をしながら十勝を盛り上げたいという思いを持っていた柏尾哲哉さん(十勝シティデザイン株式会社創業者)が『帯広市街地のホテルみのやさんが閉まっちゃってて』と言ってきたんですね。

柏尾さんは坂口さんに「みのやさんの跡地で何かやりませんか?」と声をかけます。宿をやりたかったという坂口さんの思いを知っていたからこそ、柏尾さんも声をかけたのでしょう。とはいえ、資金も必要だし、東京のお店もまだ開いています。それでも坂口さんは、地元である十勝にいろいろなことを感じ始めていました。

ホテルみのや

旧ホテルみのやの外観

自分が十勝に帰るたびに街も閑散としてきていて、好きだった喫茶店も移転したり廃業したりしてしまい、特に昼間はここに行けばローカルな話を聞ける、というようなところがない。それがすごく悲しかったんですね。夜はまだ賑わっていて、たとえば北の屋台は一つひとつのお店が小さいから、8人程度入るとぎゅうぎゅうですが、地元の人と外から来た人がいい混ざり方をするんです。でも、昼間は飲食店を一軒開いたところで夜開けるようになってしまう未来が見えている。宿だったら滞留人口も増やせるし、昼間も開けられるかも、と思ったんです。

閑散とした街でも、うまく人を巻き込んでいけばきっと大丈夫。15年もの間、東京で飲食店を経営してきた経験と自信が、後押ししてくれました。それが2014年のこと。

『HOTEL NUPKA』が開業したのは、そのさらに2年後の2016年3月のことです。バジェットトラベラー向けのドミトリーは、ビジネスホテルなどが多い帯広の市街地のなかでも異彩を放っていました。もちろん、コンパクトな個室、さらに広めのダブルやツイン、トリプルルームも用意し、あらゆるニーズに対応できる宿泊施設になっています。

HOTEL NUPKA HOTEL NUPKAの朝食 クロックムッシュ

『HOTEL NUPKA』外観(上)朝食のクロックムッシュにも十勝の食材がいっぱい(下)

そして旅行者が泊まる場所としてだけでなく、カフェが街に開かれているのも特徴。地元の人が朝食を食べにフラッと訪れてくれることも多く、「地域の公園でありたい」という坂口さんの希望が実現しています。

十勝の街が活気付いたら、今度は「歩ける街」を目指したい

カフェでは、十勝の食材を作ったローカルフードの提供にこだわりました。十勝産大麦麦芽を100%使用した、オリジナルのクラフトビールも製造・提供しています。十勝は日本有数の農業生産地ですが、意外と生産者と地元の消費者がつながる場所がありません。「だから、NUPKAを、十勝の街中と地方をつなぐ場所にしたかった」と、坂口さんは話します。

旅のはじまりのビール

NUPKAを訪れるゲストのために作られた『旅のはじまりのビール』330ml 510円(税込)

これまでの私だったら、生産者の近くでオーベルジュをやりたいとか、大好きなチーズ職人の横でピザを焼きたい、という思考だったと思います。でもそれだと、十勝の地方でがんばっている生産者や職人の存在を、街の中心地に伝えられないで終わってしまう。それはもったいないから、双方のつなぎ役になりたいんですよね。

その「つなぎ役=コンシェルジュ」は、多ければ多いほどいいと坂口さんは考えています。たとえば東京のお店では、坂口さんが忙しいときでも、常連さんが代わってお客さんに説明をしてくれました。NUPKAでも、それが日常の風景になることを願っています。

HOTEL NUPKA HOTEL NUPKA
十勝に住む人みんなに、コンシェルジュになってもらいたい。世界中簡単に移動ができる現代では、一度旅行に行ったところには、よっぽどの理由がないと再訪しないじゃないですか。でも旅先で大事な人やもの、ことができたら、また訪れるきっかけになるかもしれない。コンシェルジュが旅人にとって大切な存在になれたら。本気でそんなふうに思っているんです。
HOTEL NUPKA HOTEL NUPKA

NUPKAでは、カフェスペースや屋上を使いさまざまなイベントがおこなわれ、自然と人が集まっている

HOTEL NUPKA

NUPKAを起点に馬車で夜の帯広をめぐる「馬車BAR」も好評。元ばん馬のムサシコマは、いまや十勝観光大使

NUPKAを起点に、十勝の街が活気づいてほしい。それが実現したら、次に目指したいのは「歩ける街」です。高齢者が車を手放せなくて事故が増えたり、札幌のような便利な都市に人口が流出したりすると、地方は衰退してしまいます。

一極集中は地方消滅の第一歩だし、何か起きたときのリスクがすごく大きいじゃないですか。広い北海道のインフラ整備は本当に大変だけど、指をくわえて見ているわけにもいかない。自分たちが暮らしやすい街を描いていくことで、同じ考えを持つ人たちが少しずつ動いていくしかない。本当に必要なものはなにか、これからも考えていきたいです。

みんなが十勝のよさに触れられる環境をつくったあとは、より暮らしやすい十勝を目指して。坂口さんは、志を同じくする仲間とまた、新しい仕掛けをしていくのです。

SPOT HOTEL NUPKA

HOTEL NUPKA

■所在地:北海道帯広市西2条南10丁目20-3
■電話番号:0155-20-2600
『HOTEL NUPKA』公式HP

SPOT NUPKA Hanare

NUPKA Hanare

■所在地:北海道帯広市西1条南10丁目18
『NUPKA Hanare』公式HP

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ライタープロフィール

仲野さん 仲野聡子

生まれも育ちも日本一人口の少ない鳥取県。高校卒業後に上京し、東京に20年ほど住んだのち、2017年8月に喜茂別町に家族と移住しました。羊蹄山麓の澄んだ空気や豪雪を楽しみ、日々人の温かさに触れています。

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