かつての自分のような、若い移住者のチャレンジをサポートしたい。若者の拠点となるホステル経営者の、新たな野望。|Domingo

かつての自分のような、若い移住者のチャレンジをサポートしたい。若者の拠点となるホステル経営者の、新たな野望。

浦幌町

ひと

地方に移住を考えたとき、気になることはたくさんあります。 暮らしやすい町なのか、どんな人が住んでいるのか、自分にもできる仕事はあるのか…。 引っ越す前に検討できる仕組みがあれば、移住後のミスマッチも起こりづらくなるはず。 それを実現したのが、十勝管内の最東端にある浦幌町です。

元地域おこし協力隊の小松輝さんが立ち上げたゲストハウス『ハハハホステル』は、移住希望者が長期滞在して町の暮らしや仕事を体験できる大切な拠点になっています。 そしてこの春には、就業促進ポータルサイト『つつうらうら』の運営も始まりました。若者を中心にじわじわと移住者を増やし、道内のさまざまな自治体から注目され始めている浦幌町と小松さんの活動をご紹介します。

まちづくりを学びながらつながった、浦幌とのご縁。

林業、水産業、そして酪農に畑作。約5000人が暮らす浦幌町は、産業が豊かな町です。小松さんは地元である徳島の大学を卒業してすぐに、浦幌町に移住しました。遠く離れた四国の地から、この町に訪れたきっかけは何だったのでしょうか。

浦幌町の街並み

浦幌町の街並み

「高校3年時の大学選びのとき、漠然と公務員志望だったため『まちづくりについて知っておいたほうがいいだろう』と思い、専門的に学べる学科に進んだんです。在学中は、人材育成やまちづくりを行う企業でインターンシップもしていました。そんななか、インターンシップ先の企業が徳島で行っていた次世代を担う地域人材育成事業に、浦幌が大きな関心を寄せたんですね。『学生が浦幌で学びながらまちづくりに関わっていく導線を作ることができないか』という提案から新規事業が始まり、僕も現地に足を運ぶことになったんです」

小松さんは浦幌で、学生が集まって寝泊まりしながら町を盛り上げるためのプロジェクトを考えるフィールドワークの準備や、食事の手配などをサポートしていました。

学生のころの小松さん(右から4番目)

学生のころの小松さん(右から4番目)

「初めて浦幌に訪れたのが大学3年生の9月ごろで、そこから卒業までに4回ほど行き来しました。夏休みに長期滞在したり、卒業論文を浦幌で書いたりしているうちに、少しずつ町が身近になってきたんです」

若い世代の、旅の拠点となる宿を作りたい。

小松さんは大学卒業を間近にして、浦幌で地域おこし協力隊を募集していることを知ります。ミッションは観光事業。任期満了後には、町での起業が推奨されていました。大学在学中に旅行業の資格を取るなどして、ゆくゆくは観光関係の仕事で起業するための準備をしていた小松さんにとって、とてもタイミングのいい求人だったといえます。

小松さん

「移住自体に不安はなかったけれど、協力隊の任期を終えてからどうなるか、という漠然とした不安はあった」と当時を振り返ります

「協力隊に応募して採用が決まり、浦幌に引っ越してきたのが2017年。着任して2年目のころから、本格的に観光事業に関する活動を始めました。当時担当していたのは、農林水産省が推進する『農泊』(※)プロジェクトで、バードウオッチングやハマナスの収穫体験、炭鉱跡などをめぐる浦幌のガイドツアー業務です」

※農山漁村地域に宿泊し、豊かな地域資源を活用した食事や体験等を楽しむ滞在型旅行のこと

タンチョウ

国の特別天然記念物であるタンチョウが見られる

炭鉱跡

かつて炭鉱の町だった浦幌に残る炭鉱跡

同時に起業の準備も始め、協力隊3年目で独立。起業後は、ガイドツアーに加えて役場職員の出張や、中学校の修学旅行の手配なども担当していました。そして、もうひとつ成し遂げた大きな仕事が、ゲストハウスの開業です。

「町と育むゲストハウス」イベントの時の写真

ゲストハウス完成前の2020年3月、阿寒町でゲストハウス『コケコッコー』を運営する名塚ちひろさん(左)をお招きして「町と育むゲストハウス」をテーマにオンライン配信を行ったときのスナップ

「会社を設立するときに必要な事業計画のなかに『ゲストハウスを作る』という項目も入れていたんです。僕がいままでに手がけてきたガイドツアーだと、来訪者が浦幌に滞在する期間が短い。それだと、事業として成り立たせることも難しいんですね。かつ、若い旅行者が集まりやすい宿も浦幌になかったので、そういう人たちが拠点としてくれる、長期滞在できるゲストハウスがあればいいな、と思ったんです」

小松さんは独身寮だった築35年の建物を購入し、自らの手で改装。学生時代からDIYが好きで、浦幌でも周りの人に手伝ってもらいながら自宅の床を張り替えるなどの簡単なリノベーションを行っていたため、ゲストハウスの改装も仲間と楽しみながら行いました。

役場職員と協力隊を中心に、延べ200人もの地元の人たちがゲストハウスの改装を手伝ってくれました

役場職員と協力隊を中心に、延べ200人もの地元の人たちがゲストハウスの改装を手伝ってくれました

実際に働きながら実感した、一次産業の人手不足。

こうして2021年の7月に誕生したのが『ハハハホステル』。耳にするだけで楽しい気持ちになる名前ですが、ちょうど新型コロナウイルスの蔓延で旅行業もままならない時期だったこともあり、どうやったらお客さんに来てもらえるか、最初はあまり見えない状態だったそうです。

ハハハホステル外観

ハハハホステル外観

ハハハホステル内観

利用者の7割が旅行客、そのほかに工事の仕事や出張で利用してくれる人も多いそう。フィールドワークを目的とした大学生も、長期滞在してくれます

「ハハハホステルの準備をしていたころから、協力隊の研修で出会った酪農家さんのところでアルバイトをさせてもらっていて、開業後もお客さんがいないときは継続してお世話になっていました。現場で彼らと話をしていると、改めて慢性的な人手不足に悩まされているな、ということをひしひしと感じたんです」

酪農の風景

力仕事で大変ではあったものの、酪農の仕事に楽しさも感じていた小松さんは、ある日酪農家さんに「たとえば1ヶ月間、浦幌に滞在してアルバイトをしたいという子がいたら、受け入れられますか?」と聞いてみました。すると「いいよ」という返事が返ってきたのです。

「北海道にはファームステイで働いている人がたくさんいて、中には年間を通して100組以上の申し込みがある農場もあるんです。そして、北海道で酪農を経験してみたい子は、実はかなりいる。それならハハハホステルをファームステイの滞在先として使ってもらえれば、宿としてもメリットがあるし、農家さんも助かって、いい循環が生まれるのではないか、と思ったんです」

酪農家さん

お世話になっている酪農家さんと

このような流れを経て、小松さんは徐々に「ここで暮らす若者を増やすために、自分にできること」について考えるようになりました。田舎に移住して、まず必要になるのは住むところと、仕事です。そして浦幌には、たくさんの求人があります。

「それなら酪農などの一次産業をメインに、宿のホームページを使って就業体験したい人の募集をしよう」と思っていた矢先、浦幌町から、新たなプロジェクトに参画してくれないかと打診がありました。それが、浦幌町の求人情報を発信し、就業のマッチングも行えるポータルサイト『つつうらうら』です。

暮らしの情報も届ける求人サイト『つつうらうら』。

つつうらうら サイト

たとえば「農業だけ」など、特定の業務に特化した求人サイトは、いままでもありました。しかしそれは、農業をやると決めている人だけが見る情報です。かつ“農業の求人”という枠組みのなかで、十勝の左端にある浦幌を選んでもらおうとすると、かなりハードルが高い。それよりも気軽に浦幌に来てもらい、浦幌での暮らしを体験し、浦幌の人と知り合い、分野にとらわれずにさまざまな就業体験をしてもらいながら、浦幌について知ってもらってはどうか──。そんな構想を、形にしようという試みから生まれたのが『つつうらうら』でした。

ミーティング風景

発案者は、浦幌町役場産業課の小川さん(一番奥)

小松さんの仕事は、求人情報を載せたい事業者を募ることと、『つつうらうら』を通じて浦幌に訪れた人のコーディネートをすること。現在は、求人・就業体験含めて20件ほどの情報が掲載されています。またサイト内には『浦幌のこと』というコーナーがあり、実際に滞在した人が浦幌での暮らしや仕事について書くリアルな滞在記が読めるのも魅力。情報が随時更新されていく、ポータルサイトとしても機能しています。

「生産者の反応はなんとなくイメージがついていましたが、商工業の反応は読めなかったので、お声がけをするときは少し緊張しました。でも受け入れてくれる企業は10社を超え、思った以上に柔軟に対応してくださったのでホッとしています」

サケ定置網漁業

サケ定置網漁業を行っている、株式会社七協水産

株式会社浦幌木炭

100年の歴史をもつ「浦幌木炭」の技術を2021年に継承した、株式会社浦幌木炭。十勝産のミズナラを使用しています

浦幌は、若い移住者の挑戦を後押ししてくれる町。

浦幌に住んで5年。移住者の先輩である小松さんの目に、いま、この町はどう映っているのでしょうか。そして、小松さんが浦幌に住み続ける理由はなんでしょうか。

「浦幌は、若い世代の挑戦を応援する空気に満ちあふれているんです。相談やお願いをされたら、まずは耳を傾けてくれる。先日も、老舗のお蕎麦屋さんを20歳の男の子が事業継承したのですが、2021年の冬にプレオープンをした際、商工会のメンバーが2日に1回くらいのペースでお蕎麦を食べに来ていたんですよ。応援ってそういうことだよな、と思いました」

レストランで働く若き移住者

浦幌に住む友達がきっかけでハハハホステルとつながった、若き移住者。小松さんの紹介で牧場に就職し、いまは町内のレストランに転職してバリバリ働いています

何かを行動に移したら、応援してくれる人はいる。そう思うと、小松さん自身も自ずと失敗への不安や怖さがなくなっていったと言います。仮に宿の経営がうまくいかなかったとしても、酪農の仕事をさせてもらいながら新たな道を探すこともできる。産業が豊かな町に暮らしていると、そんな安心感もあるようです。

「今後は、浦幌で暮らしていきたい若い子たちが何かやりたいと思ったときに手伝ったり、場を用意したりできるようになりたい。また『つつうらうら』をきっかけに移住した子が、横のつながりもなく同期もいない状態で孤独になることを避けるために、地域内の新入社員歓迎会などの企画もできるといいなと思っています」

そしていま、小松さんが新たに準備しているのは、若い移住者たちが交流できるシェアハウスです。自身も移住者で、移り住んで最初のころの不安や孤独を知っているからこそ、それを少しでも解消してあげたい。かつて自分が町の人に助けられたように、若者をサポートしていきたい。そんな気持ちでいっぱいです。

森健太さんと

浦幌に咲く花「ハマナス」を使った化粧品『rosa rugosa(ロサルゴサ)』の企画・販売をしている、三重県からの移住者で元地域おこし協力隊の森健太さん(右)と

長い休みが取れたら、観光気分で浦幌に訪れてみませんか。少しでも興味がわいた仕事があれば、気軽に働いてみるのもおすすめです。若い人たちのエネルギーと、昔からここに住む人たちのあたたかい眼差しを、感じられるかもしれません。

小松 輝さん

1994年生まれ、徳島市出身、梨農家の孫。元浦幌町地域おこし協力隊。大学卒業後に浦幌町へ移住し、地域おこし協力隊として浦幌町の観光事業に取り組み、2019年に法人設立。2021年にゲストハウス「ハハハホステル」を開業。

▼Domingoで「小松 輝さん」の詳細を見る
小松 輝

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ハハハホステル

ライタープロフィール

仲野さん 仲野聡子

生まれも育ちも日本一人口の少ない鳥取県。高校卒業後に上京し、東京に20年ほど住んだのち、2017年8月に喜茂別町に家族と移住しました。羊蹄山麓の澄んだ空気や豪雪を楽しみ、日々人の温かさに触れています。

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