Domingo編集部
もうひとつは、ヨーロッパ圏や北米からの宿泊客です。白老町には本来、同じ外国人客でもアジア圏から来る人が大半ですが、hakuに泊まりに来るのは、オランダやドイツ、ポーランド、カナダなど、これまで町の統計にはみられなかった国籍の人びと。
宿泊予約サイトBooking.comの口コミには、「スタッフがフレンドリーで最高」「古いものと新しいものが上品に融合されている」といった、ヨーロッパ圏・北米の利用客の声が20件近く寄せられています。
本との出会いでアメリカへ
菊地さんは、1976年の千葉県生まれ。子どものころから読書が好きで、高校時代に“環境問題”に関する本を読んだことが、その後の人生を大きく左右しました。
“SDGs”という言葉すらなかった1990年代に、高校生が環境に関心をもつ……?多くの人は、その意識の高さに驚くかもしれません。ところが菊地さんは、こう言って笑います。
「今もその気(け)があるんですが、『真ん中を攻めたくない』というちょっとひねくれたところがあって。書店で本を選ぶときも、みんなが読むような流行りの小説じゃなくて、あえて難しい本を手に取って読んでいたんです(笑)」
それが、ヘンリー・デイヴィッド・ソローの『森の生活』や、ラルフ・ウォルドー・エマソンの『自然論』でした。生き物が好きだった菊地さんは、人為的な理由で生き物が絶滅することの理不尽さに、「なんとかしなきゃ」と、根拠のない正義感を感じました。
ちょうどその時期、菊地さんは、ある突拍子もない行動を起こします。学校の「交換留学」制度を、両親に内緒で申し込んだのです。
「(留学生に使ってもらう)部屋もないのにどうするの!」
菊地さんが当時住んでいたのは、ごく普通の団地でした。ゆえに、「2日後にアメリカから留学生が来る」と知って、両親は大混乱。ただ、内緒で申し込んだのは、菊地さんが普段から両親に信頼されていて、ほぼ野放し状態だったがゆえでした。
こうして菊地さんは、本当にアメリカへ交換留学。
「もう、カルチャーショックすぎました。ホームステイした家が大豪邸で、家の中にゲームセンターがあったんですよ。庭にはヨットがあって、窓から夜景が望めて……。それでもその地域では、“超お金持ちの家”というわけではないようなんです。日本って経済大国と言われているけど、決して豊かじゃない。アメリカってすごい国だなって」
高校卒業後の進路を決めるとき、菊地さんを導いたのはやはり本でした。
書店で見つけた『アメリカの環境保護運動(岩波新書)』に、アメリカには環境問題を深く学べる4年制大学があること、環境保護活動のメッカがあることが、くわしく書かれていたのです。
英語が得意だった菊地さんはさっそくTOEFLを受験し、アメリカの大学に問題なく入れるレベルの点数を獲りました。卒業式の3日後、アメリカ・カリフォルニア州へ飛び立ったのです。