ばん馬がひく馬車に乗り、夜の帯広を眺める。この街だからこそ実現したプログラム『馬車BAR』|Domingo

ばん馬がひく馬車に乗り、夜の帯広を眺める。この街だからこそ実現したプログラム『馬車BAR』

ビジネス客を、ホテルから街に引っ張り出そう

帯広の人口も減り、閉店するお店も増えてきているいま、「街のアイデンティティはなんだろう」「他所に誇れる帯広の魅力はなんだろう」と考えて実行に移している十勝シティデザインと、永田さんの思いは一致しています。

「私にとって、帯広、ひいては十勝という街はとても魅力的なのですが、その魅力を改めて因数分解したうえで私が選んだ手段が『馬文化』というキーワードだったんです。ばん馬という大きな馬が日本のなかで唯一ここにたくさんいて、ばんえい競馬というスタイルで残っている。私は競馬が趣味なわけではありませんが、山岸伸さんというカメラマンの撮るばん馬が素晴らしく、そこから注目するようになったんです」

競馬ではなく馬そのものにフォーカスした力強い写真に魅了され、競馬場のバックヤードツアーにも参加し、「ばん馬は十勝を日本一の観光地にする宝物だ」と実感した永田さん。そして2019年4月に馬車BARが運行スタートとなり、ようやくプログラムの実現に至ったのです。その年末には新型コロナウイルスの感染拡大などにより、長い準備期間を強いられるなど苦悩もありましたが、さまざまな困難を経てようやく、多くの利用者に楽しんでいただける環境が整いました。

運行スケジュールは月・火・金・土の週4日。18時発、19時発、20時発の一日3便がNUPKAを起点に発着します。もちろん、NUPKAの宿泊者以外も利用可能。馬車BARを目的に十勝を訪れる人が増えれば、自然と帯広市内に泊まったり飲食したりする人も増え、経済効果もあるでしょう。

「観光客誘致だけでなく『ビジネスで来られるお客さまをホテルから街に引っ張り出そう』という狙いもあります。帯広の駅前にはホテルがたくさんありますが、ビジネス客も多いんです。昼に仕事をして夜フリーになる人たちが、『街のことをよく知らないからホテルにこもっていた』という状況に陥るのを避けたい。馬車BARをきっかけに、夜の帯広を楽しんでほしいんですよね。国土交通省の観光政策『ナイトタイムエコノミー』も、夜の時間を有意義に過ごすことが消費拡大につながるとしています」

夜風にあたりながら屋外で街を眺めたり、1階で気の置けない仲間とビール&おつまみを楽しんだりと、いろいろな使い方ができます。

旅の醍醐味「地元の人とのふれあい」で、十勝ファンを増やしたい

さらに馬車BARは、そういった外からの利用客だけでなく、地元の人にも目を向けているのが特徴。

「結局、地元の人が一番乗りやすいじゃないですか。頻繁に乗るのは難しくても、試しに乗ってみようという人はいらっしゃいます。乗ってみて楽しければ、たとえば道外から親戚が来たり、取引先の人が来たりしたときに、馬車BARに乗ろうよと言ってくれるかもしれない。人付き合いの多い人が、それで年に2〜3回利用してくれたらうれしいですよね」

もちろん、競馬ファンも訪れます。いま馬車BARをひいているのは、かつてばんえい十勝で活躍したばん馬・ムサシコマ。「コマちゃんに会いたくて北海道に来ました」と言ってくれる人も多いそうです。そういう人は、定期的に帯広を訪れるリピーターにもなってくれます。

「コマちゃん」こと、ムサシコマ。とてもやさしい表情をしています。

「おいしいクラフトビールと地元食材で作ったおつまみを楽しみながら、馬車に乗って街を眺めるプログラムですが、見方を変えると、乗客が街の人から眺められる側になっているともいえます。街中を馬車が通るとみんなカメラを向けますし、歩きながら手を振ってくださる人もいるんです。地方都市で楽しいことのひとつである『地元の人とのふれあい』が生まれることでこの街が好きになり、また十勝へ来ます、とおっしゃる人もいます」

HOTEL NUPKAのゲストのために作られた『旅のはじまりのビール』は、北海道産大麦100%。十勝のチーズ2種と、十勝産じゃがいものセットのおつまみも、馬車BARで楽しめます。

お客さまに喜んでもらえているという手応えから、今後も馬車BARを継続していく、と語る永田さん。馬車一台、馬一頭、スタッフもミニマムで週4日の運営ですが、お客さまが増えれば馬車と馬を増やして、毎日運行することも可能です。「そうなれば、帯広の夜はいつ行っても馬車が巡っている街になる。そんな特別な世界を実現できれば」と永田さんは話します。

「ばんえい十勝やばん馬や馬車BARが広まって『帯広の街中は馬車でいっぱいなんだ』とみなさんが認めてくださったら、たくさん観光客が来て賑わうでしょうし、地域の子どもが大人になって外へ出たときに『自分の育った街には馬車が走っているんだよ』と自慢してもらえる。それが私の夢ですね」

2023年10月、ムサシコマはとかち観光大使に就任しました。

地域活性は、観光客誘致はもちろん、地元の人たちが受け入れてこそ形になる。住む人も訪れる人も楽しめる馬車BARが、やがて街の顔になる日を夢見て、永田さんはこれからも奔走します。

SPOT 馬車BAR(HOTEL NUPKA)

馬車BAR

■発着場所:帯広市西2条南10丁目20-3
■電話番号:0155-20-2600
■運行日時:毎週月・火・金・土曜日
第1便18:00発、第2便19:00発、第3便20:00発 ※季節により変更あり
「馬車BAR」の詳細や地図情報はこちら

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ライタープロフィール

仲野さん 仲野聡子

生まれも育ちも日本一人口の少ない鳥取県。高校卒業後に上京し、東京に20年ほど住んだのち、2017年8月に喜茂別町に家族と移住しました。羊蹄山麓の澄んだ空気や豪雪を楽しみ、日々人の温かさに触れています。

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