「新しい消費」と「関係人口」が創り出す、十勝と全国をつなぐ新たなライフスタイルの形とは  十勝シティデザイン創業者、柏尾哲哉さんインタビュー|Domingo

「新しい消費」と「関係人口」が創り出す、十勝と全国をつなぐ新たなライフスタイルの形とは 十勝シティデザイン創業者、柏尾哲哉さんインタビュー

ひと

まち

/

帯広市

地域が「お金の課題」と「遠距離課題」を解決するには

――「お金の課題」と「遠距離課題」はどうやって克服できるのですか?

柏尾:「新しい消費」は、地域との関わりを通じて収入を増やす可能性を示しています。また、地方に生活拠点を持つことで、生活コストを抑えることもできます。人生100年時代、年金問題などの不安が高まる中で、地域との関わりが収入面の課題を解決する鍵になると考えています。

「遠距離課題」の解決には、情報通信技術(IT)と観光滞在を組み合わせることが重要です。コロナ禍でオンライン会議が普及しましたが、直接会う重要性も改めて感じられました。昨年、ソニーで開発されたテレプレゼンスシステム「窓」を使い、渋谷と帯広をつなぐ実証実験を行いました。この技術を活用し、東京から十勝を訪れ、現地での交流を促進するプログラムを展開しています。HOTEL NUPKAは、このようにして人々が集まり、地域と深い関係を築ける場として機能しています。

窓

テレプレゼンスシステム「窓」

――今回の「新しい消費」に関する取り組みが始まったきっかけは?

柏尾:2021年、HOTEL NUPKAの別館「NUPKA Hanare」を、第一生命保険株式会社(以下「第一生命」)の帯広支社ビルの一部をリノベーションして開業したことが大きな転機となりました。第一生命は、預かった保険料の一部を不動産投資で長期的に運用しており、帯広支社ビルのリノベーションもその一環でした。このビルの大規模な改修に際し、同社の不動産部が単なる収益を超え、地域貢献も視野に入れたESG不動産投資を意識し、当社の地域貢献型ホテル運営のコンセプトに共感してくださったことが、「NUPKA Hanare」誕生のきっかけです。

NUPKA Hanare

NUPKA Hanare

さらに、帯広市も加わった三者間で「ワーケーションを通じた関係人口の創出・拡大」を目的とする連携協定を結び、この施設を関係人口を生み出す拠点として活用することに合意しました。その後、2024年に入り、第一生命の不動産部から、2023年に竣工したオフィスビル「D-LIFEPLACE札幌」と札幌の駅前地下通路(チ・カ・ホ)が直結する地下のオープンスペースで、十勝の関係人口を増やすイベントを実施してみませんかという提案をいただきました。このイベント企画を進める中で、「新しい消費」と「関係人口型地域商社」の構想が結びつき、具体的なコンセプトが発展していきました。

D-LIFEPLACE 札幌

D-LIFEPLACE 札幌

「関係人口」となり地域と都市の両方に携わるライフスタイルを構築

――キーワードとしてたびたび出てくる「関係人口」についても詳しく教えてください。

柏尾:「関係人口」とは、完全な移住はしないものの、地域と継続的に関わり、地域の発展に貢献する人々を指します。観光以上の深いつながりを持ちながら、地域のイベントや産品の販売、マーケティングに参加するなど、定住せずに地域経済や社会に積極的に関わる形です。関係人口は、地域と都市をつなぐ架け橋として、地域の活性化に大きな役割を果たしています。

この「関係人口」の概念は、中国地方の山間部で生まれました。山間部での農業を持続させるために、広島や岡山の都市部から人材交流を促進する取り組みとして始まったのです。都市の人々が農村と継続的に関わりを持つことで、地域の産業や文化を支える新しい形が作られてきました。

関係人口

都市と地域における「関係人口」のイメージ

十勝は、日本でも有数の大規模農業地帯であり、この地域の「関係人口」の役割は非常にダイナミックなものになると考えています。これまでの地域創生の取り組みは、観光振興を通じて交流人口を増やし、観光消費による経済効果を狙うものが中心でしたが、十勝ではそれを超えて、農産物や工芸品の生産や、さらには飲食店や商業施設の運営といった、地域全体の産業基盤を継続的に支援するような形で関係人口が活躍することが期待できます。

さらに、関係人口として活動することは、都市部の人々にとっても新たな生きがいや価値を見つける機会です。たとえば、「ライフシフト」や「100年人生」の考えに基づき、地域と都市の両方に関わることで、社会貢献をしながら新しいライフスタイルを構築できます。こうした背景から、「新しい消費」と「関係人口型地域商社」の構想を進めており、都市と地域が互いに成長する持続可能なモデルを目指しています。都市部の関係人口が地域の商品をプロモーションすることで、消費者との新しい関係が築かれ、それが「新しい消費」へとつながっていきます。

地域の産品

――「新しい消費」は、“地域に関わる”という点でいえば、ある意味「ふるさと納税」にも近いものを感じますが、いかがですか?

柏尾:「ふるさと納税」も地域を支援する一つの手段であり、消費者が地域に貢献するという点では共通点があります。しかし、ふるさと納税は多くの場合、寄付行為として一度の関与で終わることが多いです。「新しい消費」は、それを超えて、より深く持続的に地域との関わりを築くことを目指しています。単に返礼品を受け取るのではなく、消費者が生産者の活動や課題に共感し、直接的な支援を通じて、互いに利益を共有する関係を作り出すことが「新しい消費」の本質です。

新しい消費の大きな特徴「消費者が積極的に関与する仕組み」

――近年は地方の生産者が自らECサイトに出品し、それを都市部の人が購入するというシーンも増えていますよね。それと「新しい消費」との大きな違いはなんでしょう?

柏尾:ECサイトでの購入も、生産者支援の一つの形として非常に有効です。しかし、「新しい消費」は、単なる物の売買にとどまらず、消費者が生産者の努力や思いに共感し、それを支援する行動を起こす点で大きく異なります。例えば、ECサイトでは購入したらそこで関係が終わることが多いですが、「新しい消費」では、生産者とのつながりを深め、都市部でのマーケティング活動を手助けしたり、現地を訪れて直接生産者と交流するなど、消費者が積極的に関与する仕組みです。この点が大きな違いです。

地域の産品
  1. ホーム
  2. Domingo編集部
  3. 「新しい消費」と「関係人口」が創り出す、十勝と全国をつなぐ新たなライフスタイルの形とは 十勝シティデザイン創業者、柏尾哲哉さんインタビュー