地域からの恩恵に自覚的でいたい。5周年を迎えたドット道東が辿り着いた「ローカル事務局」という役割|Domingo

地域からの恩恵に自覚的でいたい。5周年を迎えたドット道東が辿り着いた「ローカル事務局」という役割

ひと

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道東

道東という単位がもたらす強い当事者意識

DOTO-NET

――イベントの企画から始まり、ガイドブック制作や自治体の仕事など、事業を着実に拡大してきたドット道東が、次なる展開としてリリースしたのが『DOTO-NET』というサービスでした。これを始めようと思った経緯を聞かせてください。

中西:簡単にいうと、地域のなかで再投資を生むようなスキームを作りたかったんです。「里山から恵みを得ているんだから、里山にも恩返ししようぜ」ってことですね。また里山の例えになっちゃったけど(笑)。

『DOTO-NET』のコンセプトは、29歳以下の若者を全力で応援すること。道東の年長者や企業・自治体が資金を出し、それによって若者が自己実現をしていく仕組みを作っています。その施策を実行していく団体が、ドット道東という形ですね。

『DOTO-NET』概要 『DOTO-NET』概要

『DOTO-NET』概要

――それはまさに事務局的な立ち位置ですね。

中西:そうなんですよ。なぜこのサービスを作ったかというと、何もしなければ地域の人口はどんどん減っていきますよね。そうなっていくと、ハイパフォーマンスな人を増やしていかない限り、社会的なサービスやインフラを維持できなくなっていくじゃないですか。

現在の道東の人口は約90万人ですが、2045年には65万人にまで減るという試算が出ています。30%ほど減ってしまうんですよ。もちろんテクノロジーの進化によって補完される部分はあると思いますけど、単純に数字だけで見ると1人が1.5倍くらい頑張らないと、今の生活水準は保てないってことになります。つまり、ハイパフォーマンスな人を育てたり、個々が力を発揮できる環境を作らないと、道東は破綻しかねないわけですよ。そう考えると、道東の人や企業・自治体は、この地域の未来を支えていく若者にちゃんと投資したほうがいいじゃないですか。

――そういう課題感から、若者を応援する取り組みを始めたと。

ドット道東

中西:今まではそういう仕組みがなかったから、何かをやりたい若者は個人の力でやるしかなかったんです。だけど、そこに地域からの支援があれば誰もがチャレンジしやすくなるし、ちゃんと形になる可能性も高まるじゃないですか。

そうやって成果を出せた人は、自分が受けたサポートを忘れないだろうし、自分も誰かを支えようという意識が生まれると思うんですよね。「木の実がたくさん収穫できたから、周りに恩返ししよう」みたいな。そうなったら、ずっと再投資が続いていくエコシステムができるんじゃないかなと考えています。

――地域からサポートを受けた若者が成長して、今度はサポートする側に回るという循環ですね。

中西:『DOTO-NET』に参加してくれている人たちを見ると、現時点ではサポートを受ける若者よりも、応援する年長者や企業のほうが多いんです。

――すごい!それは地域のことを自分事と思ってる人が多いエリアだからこそなんでしょうね。東京で同じことが起きるかというと、想像しにくいような気がします。

中西:そうかもしれないですね。地域が好きになっていけば、そこに還元しなきゃという気持ちも自然に湧いてくると思うんです。そういう気持ちを醸成して、いい地域にしていこうという機運を高めていくのが、ドット道東の役目なんじゃないかなと考えています。

ドット道東の活動をするなかで、周りの応援が誰かの自己実現に繋がるという事例をたくさん見てきました。それを僕らだけでなく、地域の人たちみんなが自分事として関わってくれるようになったら、応援できる人がもっと増えるじゃないですか。それは、人口減少が続く地域にとってはひとつの希望になると思っています。

『DOTO-NET』リリースイベントの様子

『DOTO-NET』リリースイベントの様子

野澤:僕らからすると『DOTO-NET』って、今までずっとやり続けてきたことなんですよ。ドット道東がやってきたこと全部が『DOTO-NET』みたいな。それを自分たちだけでなく、地域の人や企業・自治体と一緒にやっていきたいんです。

ドット道東の取り組みの恩恵を受けた第一号は、僕だと思っています。何もわからないところから引き上げてもらったので。そういう体験をしているからこそ、かつての自分のように何かやりたいと思っている人が関われる場所にしていきたいんですよね。未経験だけど将来的にクリエイティブの仕事をしたいという若者がいれば一緒に取材現場に行ったり、お店をやりたい人がいれば既にお店をやっている人を紹介したり。そうやって1ミリでも2ミリでも興味ある人がいたら、どんどん引っ張り上げていきたいなと思っています。

――『DOTO-NET』を通じて、すでに形になったプロジェクトもあるんですか?

野澤:参加者みんなが見れるコミュニケーションツールがあって、若者たちがやりたいことを書き込んでくれるんですよ。まだ数は多くないんですけど、そこに書かれたことは可能な限り実現したいと思っていて。

最近だと、「アスパラの収穫体験を通じて、DOTO-NETの人たちとコミュニケーションしたい」という声があって、農家さんと繋ぎ、参加者を募り、みんなでアスパラを収穫しに行くという体験をしました。実際にやってみたあとに、企画者の子が「自分が言ったことが実現できるんだと思いました」と言ってくれて、僕としてもめっちゃ嬉しかったですね。

――自分がやりたいことが実現できたというのは、大きな成功体験ですね。

『DOTO-NET』を通じて実現したアスパラ狩り体験 『DOTO-NET』を通じて実現したアスパラ狩り体験

『DOTO-NET』を通じて実現したアスパラ狩り体験

『DOTO-NET』を通じて実現した十勝の食材ご飯会

『DOTO-NET』を通じて実現した十勝の食材ご飯会

中西:『DOTO-NET』に加入して、サポートをしてくださっている自治体さんには、ニュースリリースなどの機能を開放しています。やはり自治体さんも人口流出に課題感を持っているので、道東に興味がある若者に情報を届けられるインターフェースとして『DOTO-NET』を育てていけたら、替えのきかないサービスになっていくと思うんですよね。

道東には大学が少ないので、高校を卒業したら地域外に出ていく人が多く、そこが人口流出の大きなボリュームゾーンになっています。だけど、道東を離れる前にみんなが『DOTO-NET』に入っている状態が作れたら、地元と関わりたいと思ったときの接点になるし、逆に地域側からも地元出身者にアクセスできるのって大事なことだと思うんですよね。これまでは、地元を離れると関係性が途切れてしまいがちだったので。

――地域に関する取り組みでは「ハブになる」という言葉が使われることが多いですが、それを事務仕事の単位まで細かく分解して実行しているのがドット道東なんですね。

中西:こういう取り組みって、結局はハブになる人たちがやり続けるしかない構造だったと思うんです。ただ、僕らだけがやっていても思い描いている理想の姿には辿り着けません。でも、同じような気持ちで地域に当事者意識を持ってアクションする人が増えたら、地域は着実に変わると思っています。

野澤:ハブになると、繋がりのある人たちを抱える形になりがちじゃないですか。だけど、本当は繋がった人たちがいろんな経験を経て、卒業していくことを意識する必要があると思うんです。そうやって自分たちの手を離れた先で、同じような想いで活動している人たちが広がっていけば早く理想に辿り着けるはずだから。

ビジネス的にはせっかくの繋がりを手放すのはネガティブなことかもしれないけど、そこをグッと堪えて、道東を思う人や活動が自律分散していく流れを作れたらいいですね。

――自分たちで畑を作って、そこで育った苗木が各地に散らばっていくことで、里山の木が増えていくみたいな。

中西:出た、里山理論(笑)。

ドット道東

野澤:大学生の頃にドット道東でインターンをしてくれていた子たちが、東京で自発的に「東京道東同好会」という会を作っているんですよ。僕らも知らないような道東出身の若者たちが集まったりしてて。最近では関西にも道東同好会ができたみたいで、人が人を呼んで道東に思いを寄せてくれる場所がどんどんできてきているんです。

――それはすごいですね。まさに自律分散。

中西:すごいですよね。そこに集まっている人たちって道東という広域のカテゴリーがなかったら、違う地域の人たちじゃないですか。「同じ北海道ですね」くらいの距離感だと思うんですよね。だけど、北見出身でも釧路出身でも道東というレイヤーで見ると、同じ地域の人って思えるっていう。
自分が帰属するレイヤーって、いくつもあるじゃないですか。地球人だし、日本人だし、道東人でもある。それが道東とか、北見とか、同じ高校とか、単位が小さくなっていくほど当事者意識の実感値も強くなると思うんですよ。そうすると「せっかくなら道東の食材を買いたい」とか「北見の仕事だから、北見の人にお願いしたい」みたいに、行動にも反映されていくんだと思います。

――それで言うと、道東というのは、当事者意識を持つ上で大きすぎも小さすぎもしない単位なんでしょうね。

中西:手前味噌ですけど、道東という言葉を自分のものとして使う人が増えたのは、僕らの功績のひとつだと思うんですよね。今までは地域を区切る単位でしかなくて、そこに感情移入なんてできませんでしたから。ドット道東の活動は、道東という地域にアイデンティティが備わるきっかけにはなったんだと思います。

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