Domingo編集部
地域からの恩恵に自覚的でいたい。5周年を迎えたドット道東が辿り着いた「ローカル事務局」という役割
ドット道東を次世代に引き継いでいくために
――最後に、お二人が思い描いている今後の展望について聞かせてください。
野澤:「理想を実現できる道東にする」という大きなビジョンがありつつも、目の前のことをしっかりやらないと足元をすくわれるなとも思っていて。順調にいっていれば、もう少し仲間は増えているはずなので、一緒に働きたいと思ってもらえるような環境を作っていきたいですね。もっともっといろんな人に関わってもらいたいので。
個人としては、帯広市から芽室町に引っ越したんですよ。道東各地で、地域に根を下ろして自分の暮らしを作っている人たちと出会うなかで、自分は帯広という大きな街でそういう暮らしはできていないなと思って。ドット道東には、地域との関係性を育み、いろんな課題と向き合い、予算を組んでくれた人たちから相談がくるんです。そういう苦労を経験したことがないくせに、上澄みだけすくっていくようなことはしたくなくて。そのためには、自分にも同じような経験が必要だったんです。なので、小さい町に引っ越して、地域の人たちと向き合い、新しいことをするための予算を組むという経験を自分でもしていきたいと思っています。
中西:「田舎だから」とか「人がいない」という理由で、「道東じゃ理想を実現できない」と思う人がいる状況を変えたいというのが、ずっと思っている目標ですね。僕は、ドット道東が作ってきた人の繋がりや地域ブランドを“道東資本”と呼んでいます。そういう目には見えない資産が積み重なって、ただの区分でしかなかった道東という単位が、地域の人たちが使える主語になりました。みんなで里山を豊かにしていったみたいな感覚ですね。
その資源を使って個人の自己実現を目指したり、新しいビジネスが生まれていったらいいなと思っています。そこに関わる人を増やすと、恩恵を受けられる人も増えるはずなので、もっとドット道東を開かれたものにして、「理想を実現できる道東にする」というビジョンに近づいていきたいです。
中西:最近、中小企業や親族間での事業承継に関わる仕事をしているんですけど、そういうのをやっていると「人生って短いな」と思うんですよね。僕は今36歳で、もう一周したら72歳じゃないですか。経験値や知識は増えてるでしょうけど、活動的な期間は過ぎていて、できないことのほうが多くなっているはずです。そう考えると、残された時間は短いなって。
なので、自分たちがやっていることを次の世代に引き継いでいく重要性を感じるようになりました。そのためにも、受け継ぎたいと思われるような活動にしていかなきゃなって。僕らが動けなくなったら終わりじゃなく、そのあとも続いていくことが重要なので、そのためのサイクルを作っていきたいですね。
――ドット道東も、誰かに継いでいきたいと考えているんですか?
中西:それはすごく意識しています。僕らもライフステージが変わっていくと、関われるものと関われないものが出てくるじゃないですか。ジェネレーションギャップが生じたりして。「理想を実現できる道東にする」というビジョンに向かうためには、若い人が事業を担っていったほうがワークしていくと思うんですよ。そういう新陳代謝がないと、適切な選択や対処ができなくなっていくでしょうし。
事務局として機能していくにはフレッシュな感覚が必要だから、ドット道東も誰かに受け継いでいきたいと思っています。若い世代に継ぎたいと思ってもらうためにも、仕事の内容も収入面も充実させていかなきゃいけないし、まだまだ自分たちも頑張りながら、開かれた場所にしていくというのが個人的には大きなテーマです。
――中西さんは、対峙した課題がどんどん自分事になっていく人なんですね。人口減少とか、事業継承だとか。
中西:地域課題って、本当は全員がステークホルダーのはずなのに、みんなそこに対して無頓着だよねと思ったりはしますね。ちょっとでもみんなが関われば、物事は大きく動くはずなのに。 例えば、道東の人たちが1人100円ずつ出したら、1億円近いお金が集まるんですよ。それを毎月集めたら、1年で12億円です。たった9人で今くらいやれているんだから、仮にみんなが毎月100円払えば、単純計算で20倍近い事業とインパクトになると考えると、絶対に地域は変わると思うんです。
野澤:それだけあったら、本当にいろんなことができるよなー。
中西:そこまではいかなくとも、「DOTO-NET」によってそれが2倍なのか10倍なのか、近い数字に近づけていくのが僕らの挑戦なんです。
絶対にやったほうがいいけど、面倒臭いから誰もやらないことってあるじゃないですか。そういう「誰かやってくれたらいいな」ということを、僕らはやっている自覚があります。行動する人が損するのではなく、やったほうがいいことに対して、みんなが当事者になってもらう。そんな道東の未来を作っていきたいですね。
ライタープロフィール
『IN&OUT -ハコダテとヒト-』編集長 阿部 光平
北海道函館市生まれ。大学卒業を機に、5大陸を巡る世界一周の旅に出発。帰国後、フリーライターとして旅行誌等で執筆活動を始める。現在は雑誌やウェブ媒体で、旅行、音楽、企業PRなど様々なジャンルの取材・記事作成を行っている。東京で子育てをするなかで移住を考えるようになり、仲間と共にローカルメディア『IN&OUT –ハコダテとヒト-』を設立。2021年3月に函館へUターンをして、雑誌『生活圏』を発行した。