Domingo 記事
帯広・北の屋台を2025年10月に卒業した「アイヌ家庭料理ポンチセ」は、同年11月に旧「餃子の笑福」跡地へ移転して再オープン。屋台から一歩踏み出した新たな場所には、これまで以上に自由で、ひらかれた時間が流れ、さまざまな人がつながる場所となりました。今回はお店のメニューはもちろん、その背景や人が集う場所としての魅力をご紹介します。
お店誕生のきっかけとなった“大きな転機”とは
帯広駅から徒歩5分。ビルが立ち並ぶ路地に路面店で店を構える「ポンチセ」
帯広・北の屋台からスタートした「ポンチセ」。そのはじまりには、オーナー・純子さんの大きな転機がありました。もともと純子さんは、北の屋台に通う“お客さん”でした。飲み歩くうちに、「いつか自分もここでお店をやりたい」と思うように。けれど当時は子どももまだ小さく、「今じゃないかな」と一度は断念しましたが、そのわずか1週間後に癌が発覚しました。さらにそのタイミングで、屋台側から「屋台の研修生としてやってみないか」と連絡が入ります。
オーナーの純子さん。ポンチセは、直訳すると「小さな家」という意味
「死ぬかもしれない」という恐怖が心のブレーキを外し、「やりたいことをやろう」と決めた純子さん。研修生として屋台に入り、その後8年間にわたって北の屋台で店を続けてきました。「病気がなかったら、ポンチセをやりたい気持ちだけで終わっていたかもしれません」と振り返ります。
オーナーの純子さんのタトゥーと同じマークのロゴ
屋台で営業を続けるなかで、次にやりたいことも少しずつ見えてきました。移転をしたいなと思ったきっかけのひとつは、店内で友人の歌手を招いて行ったライブ。10人ほどしか入れない空間でのライブは楽しい反面、どこか手狭さも感じていたといいます。「もっとこの人たちの魅力を伝えられる場所をつくりたい」。そう思うようになり、40人ほどが入れる規模で、より自由に人が集まり、表現できる場所を思い描くようになりました。
こだわりの店内は、随所にアイヌを感じられるシンプルだけど趣のある設え
知り合いのアーティストたちに、もっと光が当たるように。その活動を後押しできる場所をつくりたい。そんな思いが、移転へとつながっていきます。そうして選んだのが、今の店舗です。
札幌を拠点に活動するアイヌ音楽のバンド「nincup」のCDをはじめ、羽織や熊の写真、書籍などいるだけで楽しい空間
母から受け継ぎ、現代でも食べ続けられているアイヌ料理の数々
柔らかくて癖のない味わい。サラダも美味しい「白糠産の鹿のジンギスカン(サラダ付き)」1,320円
昔のアイヌ料理をそのまま再現しようとすると、アイヌは狩猟民族だったので、鹿を獲り、野草を摘み、儀式を行う。そんな営みまで含めたものになります。けれど、それをそのままお店で再現するのは現実的ではありません。
店主自身が摘みにいく行者ニンニクと葉わさび
一方で、現代を生きるアイヌの人たちは、日々の暮らしの中で自然にその文化を受け継いでいます。ポンチセでは、そうした「今も食べ続けられている味や今もなお継承したいアイヌの伝統」を大切にしながら、料理を提供しています。
キハダの実と木の皮を漬け込んだお酒「シケレべ酒」880円
「子どもの頃は、何も意識せずにアイヌ料理を食べていました。でも、少し大きくなったとき、まわりの人が食べていないことに気づいて、距離を置いた時期もありました」と純子さんは話します。
じゃがいもの発酵だんご「ムニニモシト」770円。バターと塩昆布とメフンと一緒に
豚骨と野菜を煮込んだ「ポネオハウ」770円。優しい味付けで身体に染みわたる
それでも、小さい頃から慣れ親しんだ味はやはり特別なもの。 大人になるにつれて、再びアイヌ料理と向き合うようになったといいます。そんなさまざまな記憶とともにある、お母さんの味。それが、ポンチセの料理のルーツになっています。
「自家製ふきのとう味噌&クリームチーズと南部せんべい」770円。お父さんのルーツが八戸だそうで、南部せんべいを取り入れた逸品
定休日の日曜&月曜にはさまざまな催しも
ポンチセの定休日は日曜と月曜。しかしその日は、静かな休みではありません。カレーやビリヤニのイベント、ミャンマー難民支援の企画、ライブやワークショップなど、さまざまな催しが行われています。間借りのカレー屋「saam」が料理を振る舞う日もあれば、トンコリのワークショップやワインバーになる夜も。
「自分が主催じゃないイベントもあるんですけど、なんやかんや顔出しちゃって、一緒に飲んでます(笑)」そんな純子さんの人柄もあってか、この場所には自然と人が集まってきます。ポンチセは15人以上での貸切にも対応し、スクリーンやプロジェクターも完備。さまざまな人の“やってみたい”を受け止める場にもなっています。
移転後は新たにランチ営業もスタート
そして移転後新たに始まったのがランチ営業。北の屋台時代にはなかった取り組みで、昼の時間帯にもポンチセの味を楽しめるようになりました。
新たにスタートしたランチ営業。こちらは「シケレベスパイス角煮丼」1,210円
メニューには、「シケレべスパイス角煮丼」(1,210円)や「ポネオハウ(うどん入り)」(990円)などが並びます。ランチ営業を始めたこともあいまって、女性のお客さんが増加。最近は漫画やアニメ、映画で知られる『ゴールデンカムイ』の影響もあり、韓国や台湾など海外からの来店も増えているそう。
店舗の枠を大きく超えて。年に一度開催「生命万歳フェスティバル」
オーナーの純子さんが主催する「生命万歳フェスティバル」
そんなオーナーの純子さんはイベント「生命万歳フェスティバル」を年に一度主催しています。今年の開催で4回目となるこのイベントは、風景にほれ込んだという浦幌町の十勝太が会場。
2026年の開催は、8月22日と23日に決定。札幌を拠点に世界で活動しているアイヌ音楽のバンド「nincup」の歌手・豊川容子さん(オーナーじゅんこさんの妹)のライブや、海に向かって歌うカラオケ、ダンスなど、さまざまな催しが行われるんだとか。ポンチセは、単なるレストランではなく、アイヌ文化の発信拠点となっています。
※ランチ営業は、山菜採りと生命万歳フェスティバルの会場整備のため、ゴールデンウィーク明けまでお休み。
※金額は全て税込
アイヌ家庭料理ポンチセ
■所在地:帯広市西3条南10丁目16-4
■営業時間:
・ランチ営業:水曜・木曜・金曜 11:30〜14:30(L.O.13:30)
・夜営業:火曜・水曜・木曜・金曜・土曜 17:00〜22:00(L.O.21:30)
■定休日:日曜・月曜
※定休日はイベント開催あり
「アイヌ家庭料理ポンチセ」の詳細や地図情報はこちら
ライタープロフィール
鹿女 / 編集者 中村 まや
宮城県出身。グルメメディアの編集者から猟師へと転身。”鹿女まやもん”という愛称で親しまれている。おいしく命をいただくことをモットーに、鹿を獲るところから精肉まで一貫して行う。また、ロゴやパンフレットのデザイン制作やライター業、イベントの企画運営などフリーランスの編集者としても積極的に活動している。
