Domingo編集部
みなさんこんにちは。標茶(しべちゃ)町の中道智大(なかみち ともひろ)です。北海道2年目の秋を迎え、去年に撮影できなかった被写体を今年はどれだけ追えるかを楽しみにしています。僕の視点で標茶町の魅力を伝えていく「しべちゃ日和」。今回は前回の塘路(とうろ)湖の特集に続き、塘路湖で行われている「べカンベ採集」についてお話します。
塘路湖の「べカンベ」って一体?
みなさんは「べカンベ」というものをご存知でしょうか。べカンベは、塘路湖で繁殖している植物の名前で「菱(ひし)の実」とも言われます。この菱の実を塘路のアイヌの人々は保存食にしていましたが、今はべカンベを採る人が年々減少し、数えられるほどしかいなくなってしまいました。今回はそんな数少ないべカンベを採集している土佐さんに同行させていただきました。
早朝に採集を開始するのには理由があって、湖が凪(風のない状態)でいることが多いからだそう。確かにこの日の塘路湖も、霧は出ていましたが湖は凪の状態で、とても穏やかでした。
べカンベの歴史
塘路湖にべカンベが生えた謂れには諸説あります。「その昔行き場を失ったべカンベが塘路湖の神様にお願いして住まわせてもらう代わりに、塘路に住むアイヌのために食糧となった」という話や「熊の背中についてその熊が塘路湖を泳いだ時に塘路湖が気に入り、住むようになった」といった話などが伝えられています。このべカンベは、塘路のアイヌの方々にとって非常に大きな役割を持っているのです。
古典的な方法で採るべカンベ
さて、いよいよスタートしたべカンベ採集。どんな方法で採集をするのだろうと思って見ていると、その方法は至って古典的。船で行って手で採る。そして採った実をカゴに入れていく。本当にこれだけでした。
実に古典的で単純な方法ですが、僕はとても感動しました。聞いてみると、過去には「網で採ったりもっと効率的に行う方法もあるのでは?」という提案があったそうです。しかし、べカンベを根こそぎ取ってしまったりしないよう環境への負荷を考え、手で採るというこの方法が取られているそうです。
これだけテクノロジーが進んだ昨今において、カヌーという実に環境に対してローインパクトなアプローチ方法と、手で採集をするというこれも非常にローインパクトな方法であることに、僕はただただ感動しました。必要な分を必要なだけ、できる限り環境やその周りに負荷をかけないように行われるこの営みは、現代のSDGsに通じる精神だと思います。